今夜、悪魔がお前らにこう云うぜ!~悪魔と契約して戦う世界で、どうやら僕だけが最強の悪魔を仲間にできるらしい~

鯖之丸焼

第一章 真実を見たいと願った想いは、目を覆われることによって踏みにじられた。

デモガルド大陸

「デモガルド大陸」___________。

 その地はかつて、邪知暴虐極めたる王が治めていたという。

 重税に苦しめられ、貴族に辱められ、兵に虐げられていた時代は、

 しかしある時、天空より降臨せし者らにより終焉を迎えた。


「彼ら」は民と契約し、自らを神と宣う愚者を地の底に叩き落した。

 地を駆け、天を泳ぎ、人ならざる術を使う「彼ら」、正しく天使とでも呼ぶべき者らは、

 しかし人と契りを交わし、神を下すその姿から、むしろこう呼ばれた。


 __________「悪魔」と。


 汝、デモガルドに住まう民ならば、いかなる時も悪魔とともにあれ。

 であればいずれ、神をも凌駕する力が汝に手を貸すであろう。




『デモガルド全書』第1章第1節 より


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 恐らく現代よりかは遠い昔の話。

 中世ファンタジー感あふれるその街並みは、これまたファンタジー系の物語の序盤らしく、活気に満ち溢れていた。

 街道に沿って商店が立ち並び、行列に並ぶ人もいれば、店の窓から商品を眺める人もいる。その中には、新婚風のする夫婦もいれば、おそらくこの空気を楽しみに来ただけなのだろう、齢6,70といった老人までもいる。


 そんななか、突然町の喧騒をもかき消す大きなファンファーレが鳴った。

 音のしたほうを見てみると、街道の奥からそれは大きな神輿が来た。


 どうやらこの町の活気具合の原因は、祭りが開催されていたかららしい。

 そして神輿の最上部には三つのシンボルが描かれ、垂れ下がる掛け軸には、このように文字が刻まれていた。



「入学式開式記念祭!」


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 ガヤガヤと活気に満ちている町をよそに、少年は広場の階段に腰を掛ける。

 ベンチなんかがあればよかった…いや実際はあったが、すでに満席のようだ。

…主に、若い男女によって。

 幸いなことに、周りには少年と同じように階段に暗い顔を携えて座る人々が何人かいた。

 もしかしたら、彼らも同じ境遇なのかもしれない…


「ふぅ…」


 思わずため息を吐いてしまう少年。

 こうも男女のいちゃつきを間近で見させられると、少年も、故郷を離れなければ同じような未来があったのかも…などと思ってしまうのだろう。


「…っと、こんな暗い顔してたら、故郷の皆に怒られちゃうよなぁ…」


 少年は旅人らしい大きなカバンから、一枚の紙きれを慎重に手に取る。


「三塔直轄の学園に招待されることは、とても名誉なことなんだから」


【フェルドゥナ村 ギルバート殿】

【本紙は貴殿の類稀なる悪魔契約の才を賛するとともに、サタニズム直轄イザヤ学園へ特別推薦することを認めるものである。】


「デモガルド大陸を象徴する三つの塔…そのうちの1塔、サタニズム…」


 デモガルド大陸には大陸の治安を維持するため西、東、北にそれぞれ塔と呼ばれる組織がある。

 ひとつは西の方角に位置し、歴史を司る”アーコン派”

 次に東の方角に位置し、仁を司る”万魔神殿”

 そして最後に、北の方角に位置し、規則を司る”サタニズム”


 デモガルド大陸に存在するほぼすべての国、都市、村はこの三塔に所属している。

 故に塔はこの大陸において絶大な力を持っており、塔に歯向かうということはこの大陸の三分の一を敵に回すということに他ならない。


 逆に、三塔の“お気に入り“になるということは、この先の人生が確約されるということだ。

 故に、この大陸の人々はどうにか頭を絞って塔に所属する方法を考えるし、辺境の村からしてみれば、自分たちの村から塔関係者がでそうというだけで、もはやお祭り騒ぎなのである。


 そしてこのギルバートという少年もそういった辺鄙な村から出稼ぎにきた者たちの一人、というわけだ。

 ただ、少し周りの人間と違うことがあるとすれば…


「『類稀なる悪魔契約の才』、ねぇ…僕は全く実感がないんだけど、ほんとにそんな才能あるの?」

「まっ、とりあえず門をくぐってみないことには、何も始まらないよね。」


 そうして少年は、この先の未来が自分にとってどのような変化をもたらしてくれるのか、

 そんな、物語にありがちな思いを胸に、この町よりも遥か遠く、天高くそびえたつ塔に目を向けたのだった。


 改めて紹介しよう。

 この少年の名は、ギルバート。

 フェルドゥナ村という、大陸でも屈指のマイナーな村で、村人たちの愛を注がれ育った、心優しき少年である。


 彼を待ち受けるのは、多くの出会いと、この大陸にそびえたつ塔よりもはるかに高い障壁だろう。

 しかし彼が悪魔を信じる限り、どんな壁もやすやすと越えていけるだろう。

 この大陸は、もとよりそういう場所なのだから。

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