箱×ラブ
朱ねこ
箱と彼女との出会い
僕の彼女は、いつも箱を持っている。
彼女の名前はひよちゃん。
ひよちゃんを知ったのは、高校入学式。
艶やかな長髪の美人が白い箱を踏んでいるところだった。
変人の美人と噂となり、興味をもった子たちが彼女を囲っていた。
僕も話しかけてみたかったが、周囲の勢いにひよってしまった。
しかし、僕は幸運だった。
席は離れているが、同じクラスになれた。
彼女は、休み時間でも授業中でも、ずっと箱を手離さない。
授業中は膝の上に箱を乗せて枕にしてうたた寝していたり、箱に乗って板書をしたり、休み時間はボール代わりにしているときもあった。
女子の中でも身長が低く、背の順にすれば一から三番手を争う高さだから、常に箱と行動しているのだろうと思った。
「おい、とき。今日も変人の美人見てんのか?」
「そのうち、通報されちゃうんじゃないの」
「うっ、うっせー」
いつものごとく、友達がにやにやしながら冷やかしてくる。
季節が冬になっても、話しかけられずにいた。
今年も、クリスマスはぼっちだろう。
終業式の日、彼女の様子はおかしかった。
顔を箱で隠して、きょろきょろして、落ち着きがない。
どうしたのか気になりつつ声はかけられなかった。
帰りのホームルーム後、友達と駄弁ってから遊ぶ約束をして別れる。
下駄箱に行くと、彼女が端っこに立っていた。
チャンスがまわってきた。しかし、心の準備ができていない僕は、やむなく退散しようとする。
情けない顔で昇降口を出ようとしたら、目の前が白くなった。
僕の前に、彼女が箱をつきつけたようだ。
「えと……」
「こ、これ、よかったら。返事待ってます」
マスキングテープで箱にはりつけられている可愛らしい柄の封筒を取れということらしい。
口がぽかんとあいたまま、封筒をはがす。
「で、では、よいお年を!」
「えっ? よいお年を?」
一目散に走っていく彼女。
これは、ラブレターだろうか。期待したくなるシチュエーション。
早く読みたい気持ちが膨れあがって、帰りながら封筒を開いた。
手紙は七枚。
「多いな」
思わず呟いてしまう。
内容は、案の定ラブレター。入学式からずっと、授業中も休み時間中も、たまに箱に隠れながらも、僕を見ていたという内容だ。
既視感のある告白に、頭をひねる。
「僕か」
僕の冬休みのほとんどは、彼女へのお返事に費やされた。
三学期が始まって、終業式と同じように箱をもつ彼女。
彼女の友達が、箱に何か書かれていることに気づく。
「お返事はこちらって、手紙でも待ってるの?」
「うん。ラブレターのお返事」
「ええええええっ!! 聞いてないんだけど!」
(えっ。言っていいの)
内心で驚いていしまう。
手紙を箱へ渡すタイミングがつかめず、帰りのホームルームが終わってしまった。
下駄箱で待つことにする。
ラブレターを送るって、こんなに緊張して、そわそわすることだとは
知らなかった。
生徒の波がおさまり、しばらくして顔を隠した箱が歩いてきた。
『お返事はこちら』と太い黒字で書かれている。
箱に近づくと、箱が少し揺れる。
箱のふたがあることに気づいて、ふたを開けて、投入する。
「……よろしくお願いします」
「よ、よかったあ」
平然としているようで、気にされていたのかもしれない。そう思うと、少し頬があつくなるのを感じた。
真正面から、ひよちゃんの笑顔を見るのは初めてだった。
時が経って、大学一年生。なんと、同じ大学に通えることになった。
「ねえねえ。ときくん」
ひよちゃんに呼ばれて振り返ると、白い箱がある。
箱に貼り付けられたハート柄の封筒をはがして、中身を出す。
手紙の内容は、日常的なこと。
『お昼、いちごパフェがたべたいな』とのこと。
講義中に書いておいたのかなと想像して、クスッと笑ってしまう。
「いいね。行こう」
相変わらず箱で手が塞がれていて、手は繋げないけど、おもしろ可愛い彼女に出会えたことについては箱に感謝だ。
箱×ラブ 朱ねこ @akairo200003
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます