第21話 モフモフ魔族達との楽しい暮らし

 僕は遠目にモフモフな混ざり者達の姿を見つけ、大きく声を張った。


「みんな、ただいまー!」


 長期休日に入り、ノヴァの家族が待つ故郷、スラムへと僕達は帰省してきたのだ。


「おお! マナトだ……ノヴァもいるぞ!!」

「ノヴァもマナトも、おかえりおかえりー」

「おかえりなさい。よく帰ってきてくれたわ」


 ノヴァと一緒に手を振れば、みんなが嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。

 可愛いモフモフ魔族達のお出迎えに感激して、思わず歓声が漏れてしまう。


「ふわぁ~~~~~~~~♡」


 もちろん僕の表情筋は崩壊してデレデレである。


「やっぱりここはモフモフ・キュートのパラダイス~~~~♡♡♡」

「ひどい締まりのない顔だぞ……ヨダレが垂れそうだ」

「おっと、じゅるっ……えへへへへ」


 涎を拭って表情を引き締めても、尻尾や耳を嬉しいそうに立てたり振ったりしてくれる可愛いモフモフ魔族達の姿を目にすると、どうしたってにやけてしまう。

 そんな僕を半目で眺め、ノヴァがぼやく。


「前にもまして駄目な顔してるぞ」

「だって、しょうがないよ~。学園にいるとモフモフ成分が足りないんだから、思う存分モフモフを愛でられるここは、まさに僕の楽園なんだよ~♡」


 お出迎えのハグをしてくれるモフモフをぎゅうぅと抱きかかえ、僕は上機嫌にクルクルと回って踊る。

 モフモフ魔族達とキャッキャウフフと戯れている僕の姿を見て、一緒についてきたグレイ達が言葉をこぼす。


「薄々そうなんじゃねぇかと思ってたんだが、やっぱりマナトは随分と変わった性癖……ごほん。部類のケモノ好きなんだなぁ」

「ようあんな人離れした姿の混ざり者に嬉々として抱きつけるのう。だから、ワシらが獣化した時も醜い姿を見て抱きついてきたわけか。相当な変態……ごほん。物好きじゃのう」

「なんと! それでは拙者が圧倒的に不利ではござらんか?! 拙者には毛皮が生えないでござる……この立派な角と尻尾では駄目でござるかぁ? マナト殿ぉ!」


 泣きそうな声を出してリュウが訴えてきたので、振り返って答える。


「え? モフモフの動物も好きだけど、ツルスベの動物も好きだよ。動物全般、大好き♡」

「マナト殿ぉ♡ 拙者も大好きでござる! これは相思相愛、やはり拙者の伴侶に――おぶわっ!?」


 リュウが僕に抱きつこうとしたところで、横にいたノヴァがリュウの顔を鷲掴みにして止めた。


「だから、どさくさに紛れて口説くなって言ってんだろうが……俺の使い魔は嫁にはやらん!」


 顔に影を落とすノヴァがドスの利いた声でがなり、いつもの急速ドレインを発動。


「うぎゃぁっ! 精気吸うの止めるでござる! そしてマナト殿を嫁にください、お父様!!」

「誰がお父様だ誰が! 頭が沸いているのか、お前は?!」

「ドレインのせいで本当に沸きそうでござる! うぎゃぁぁぁぁ!!」


 もはや、一連の流れが様式化してきた気さえする、漫才を繰り広げている。


「またやってる。ははは……」


 僕が苦笑いしていると、モフモフ魔族達は一緒に来た彼らに興味津々な様子だった。


「何あれオモロー、キャハハ」

「随分と賑やかなの連れて帰ってきたな」

「まぁまぁ、仲の良いお友達ができたのね」


 スラムのみんなに歓迎され、僕達は決闘で勝ち上がったことを盛大に祝われた。

 話を聞くと、ノヴァが勝ち進むたびに、混ざり者達の境遇が改善されていったのだそうだ。


「ノヴァ、それにマナトも、本当にありがとう。あなたたちが頑張ってくれたおかげで、暮らしがとても楽になったわ」

「危険な仕事や無理難題を押し付けられることもなくなった。働きに見合った報酬を支払われるようにもなった。ノヴァ達には感謝が尽きない」

「混ざり者を劣等種って馬鹿にするヤツらもいなくなったし、これからは堂々とできるって、みんな喜んでるよ。二人とも、ありがとー」


 スラムのみんなから、僕達は多大に感謝されたのだった。

 ノヴァは本当に嬉しそうに笑って言葉を返す。


「ああ。だけど、俺達だけじゃなく、みんなが協力してくれたから成し遂げられたことだ」

「そうだね。みんなで掴み取った勝利だよ」


 おごり高ぶったりしないノヴァはやっぱり人間ができているなと思いつつ、僕はスラムのみんなに言う。


「これからもっと暮らしやすくするよ。そのために手伝ってもらおうと思って、仲間達を連れてきたんだ。やることいっぱいあるから、みんなも協力してね」


 モフモフ魔族達が目を輝かせ、僕の周りに集まってくる。


「なになにー、今度は何するのー?」

「お土産の美味しいご飯やお菓子、ここでも作れたりするのかしら?」

「前にマナトがしてくれたトリミングとやらも気持ちよかったな。またしてくれたりするのか?」


 ワクワクと楽しそうに話すモフモフ魔族達の姿を見られるだけでも、僕は幸せな気持ちになってしまう。

 でもやっぱり、もっともっと喜ばせてあげたいと思うので、僕はわかりやすく説明してあげる。


「えへへへ、それはね――」


 この長期休暇の間、一見して不安だったスラムのライフライン設備を整えようと、色々と計画を練ってきたのだ。

 要はスラムにある家屋の改築工事や土木工事をする予定なのである。

 配下になったグレイ達も、率先して手伝ってくれるというので、連れてきたのだ。実に頼もしい。


 早速、明日から取り組もうと思う旨を伝えれば、モフモフ魔族達はさらに目をキラキラと輝かせたのだった。



 ◆



 数日が経過し、ノヴァの魔法や怪力な仲間達の手を借りて土木工事は無事に終わり、次いで家屋の改築作業も順調に進んでいた。

 そんなある日、モフモフ魔族が血相を変えて僕達のところに駆けてくる。


「ノヴァ、大変だ! お願い、助けて!!」


 慌ただしく駆けてきた魔族によれば、スラムの端で行き倒れている人を発見したのだと言う。

 ノヴァと僕は急いでその人の元へと向かった。


 着いた先では、ひどい大怪我を負い、虫の息状態のエルフが横たわっていた。


「!!?」


 混ざり者達に保護され、寝台で意識を失っている人物。その姿を見て、僕達は驚愕に目を見開く。


「……ア、アダム?!」

「どうして、こいつがここに?」


 思い返せば、決闘で勝敗が決まってから、学園でアダムの姿を見ていなかった。


「ノヴァお願い、助けてあげて!」


 アダムを心配して集まっていた混ざり者達の声にノヴァはハッとし、急いでアダムに触れ、回復魔法をかける。

 しかし、連日の工事作業で魔力消費が激しかったこともあり、回復が思うように進まない。

 ノヴァは苦しそうな表情で息を荒げ、脂汗を流している。


「はぁ、はぁ……っ……傷が深すぎて、魔力が足りない……お前らの生命力を分けろ……」

「わかった」


 僕や集まっていた混ざり者達はノヴァに触れ、生命力を分ける。

 眩暈がして気を抜くと意識を失いそうだなと思い堪えていると、ノヴァが呟く。


「なんとか傷は塞いだ……これが限界だ……」


 ふらふらとして後方に倒れるノヴァを抱きとめる。

 生命力を分けていた混ざり者達もぐったりとした様子ではあるものの、笑ってノヴァにお礼を言う。


「ありがとう、ノヴァ」

「……ああ、お前らもな」


 見れば、先程まで死人みたいに真っ白だったアダムの顔に血色が戻っている。

 これでもう一安心だろうとホッと息を吐いていると、アダムの睫毛が震えてゆっくりと目を開く。


「……、……? ……っ!?」


 虚ろな目で周りを見回したアダムは正気に戻り、飛び起きようとするが、体の痛みに表情を歪めてうめく。


「うぐっ……」

「あっ、まだ動かない方がいいよ。応急処置で傷は塞いだけど、完治してるわけじゃないから」

「なんでエルフのお前がそんな大怪我をしていたんだ? それもスラムの端なんかで行き倒れて――」

「全部、貴様のせいだ」

「「?!」」


 ノヴァが訊いていると、アダムはギロリと僕達を睨みつけて告げた。


「貴様に負けたからだ……最上位種のエルフである私が劣等種などに敗北したから……私はエルフの面汚しとして破門され、制裁を受けたのだ……そして打ち捨てられた……ただ、それだけのことだ……」


 アダムは視線を落とし、吐き捨てるようにして言う。


「捨て置けば良かったのだ……情けなどかけられる筋合いはないのだから……私にはもうどこにも居場所はない。行く宛などないのだ……じきに野垂れ死ぬだけだ……」


 自暴自棄になるアダムへ言葉をかけようとすれば、アダムを心配して集まっていた混ざり者達が前に出てきて言い募る。


「行くところがないなら、ずっとここに居たらいいよー」

「そうそう、あなたもうちの子になっちゃえばいいわ」

「おお、また家族が増えるな。賑やかになって楽しいぞ」

「……なっ! なんなんだ貴様らは!? 毛むくじゃらの手でべたべた触るな! おい、やめろ!!」


 面喰ってあたふたとするアダムを見て、ノヴァが愉快そうに笑っている。

 僕は僕で、新しいオモチャを見つけてソワソワする愛猫みたいで可愛いと思ってしまう。


「縁も所縁もない赤の他人の赤子を拾ってここまで育て上げるくらいだ。そんじょそこいらの世話焼きやお節介とはわけが違うからな。何言っても通用しないから、さっさと諦めて世話されとけ……まぁ、よろしくな、兄弟」

「はぁっ?!!」


 モフモフ魔族達にお世話してもらえるなんて、ちょっと、いやかなり、羨まけしからん。


「いいなぁ……」

「お前なぁ……俺で我慢しろ」

「え、ノヴァがしてくれるの?」


 指を咥えて見ていれば、ノヴァが頷いて返事してたので僕は上機嫌になる。

 それから、混ざり者のモフモフ達が率先してアダムの世話をした。


「ご飯の時間ですよ。食べさせてあげるわね。はい、あ~ん」

「介助などいらん。一人で食べ――むぐっ! もぐもぐもぐ、ごくん。だから――むぐ!!」

「添い寝してあげるねー。あと子守唄も歌ってあげる、得意なんだー。ららら~♪」

「いらんと言うとるだろうが……と言うか、お前が寝てどうする。寝るの早い上に、イビキうるさ……」

「ノヴァはくっついてるとすぐに良くなるんだがな。きっとくっつきが足りないんだ……みんなでアダムをぎゅうするぞ」

「……っ……や、やめろ! もういい、もう治ったから! その撫でたくなるモフモフで私に抱きつくなっ! 私はあの使い魔みたいな変態じゃないっ!!」

「え、別に撫でてもいいんだよ? 撫でてくれたら嬉しいし、家族なんだから、そのくらいしても当たり前でしょう?」

「っ!!?」


 蔑んでいたはずの劣等種達から優しくされ、アダムはしだいに絆されていった。

 回復したアダムが恩を返すと言って他の魔物達に混ざり、スラムの改修を手伝うようになれば、モフモフ魔族達は大喜びする。


「アダム、元気になったんだね。本当に良かったー」

「こんな魔法を使いこなせるなんて、アダムはすごいわね」

「アダムが手伝ってくれるおかげで、だいぶ捗ったよ。ありがとう」


 モフモフ魔族達にお礼を言われ、アダムはまんざらでもない表情を浮かべる。

 最近では、最上種であるエルフの重圧から解放されたこともあってか、アダムの表情はだいぶ柔らかくなっていた。


 改装工事の休憩中、一息ついているアダムに僕は話しかけてみる。


「どう、ここでの暮らし? 混ざり者達とも打ち解けて、仲良くやっているようだけど」


 アダムは逡巡し、モフモフ魔族達の姿を眺めながら答える。


「こうまでして私を受け入れてくれるのは混ざり者くらいだろう……こんな暮らしも案外悪くないかもしれないな……」


 そんなことを話していると、不意に聞き覚えのない声が聞こえてくる。


「おや、死体が転がっていないと思えば、仕留め損ねていましたか……」

「「!!」」


 僕達の目の前に突如現れたのは、フードを被った白装束の怪しい集団だった。

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どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界に召喚されたけど、モフモフ・キュートな魔族達に囲まれて、案外楽しい毎日を送っています~ 胡蝶乃夢 @33himawari

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