俺と親父は箱と格闘する

亜璃逢

俺と親父は箱と格闘する

 う~。眠い。なんでこの季節こんなに眠いんだ~

 まあ、“春眠暁を覚えず”なんて言葉もあるしな、仕方ないってか。


 顔を洗って、保湿をする。ついでにしっかり日焼け止めも塗る。

 最近の男子高校生は、この辺もきっちりとしなくっちゃな。

 オゾン層破壊で紫外線量が増えちゃったから、今のうちからやっといたほうがいいよとは、この春うちの高校の上の大学に進学した姉貴のことばだ。


 ダイニングテーブルには新聞を広げる親父がすでにすわっていて、母さんはせっせと朝食のおかずを作ってくれてる。うまいんだよな~。

 

「おはよ~」

「あら、早いのね。日曜なのに」

「おお、おはよう透琉」


 そんな風に両親とあいさつを交わす。


「ん~、今日はロボニクス研の反省会があってさ」

「ああ、こないだのコンテストのやつか。ほら、透流、ちょうどここに載ってるぞ」

「ん? あ、ホントだ。あ、俺のインタビューもちゃんと載ってるじゃん!」

「“部長の仁川透琉さんは、ってな。父さんも鼻が高いぞ~」

「ふふふ。お父さんね、透琉が降りてくるまでにその記事みつけて、にやにやしてたのよ~」

「母さん、それ、言わなくてよくないか?」

「はは。ありがとう親父」


 先日、俺が部長をつとめるロボニクス研こと、正式名称“ロボットメカトロニクス研究部”って、まあ、学校の部活で出した製作物が、それなりに大手の企業主催のコンテストで準優勝して、それがさっき親父が言っていた記事になったってわけ。

 

「あ、そうだ透琉」

「なに、親父」

「今日帰ったら頼みがあるんだわ」

「え、あ、うん、分かった。昼3時くらいには帰れるから」



 学校の部室での反省会は、プチ祝勝会だ。

 部室に各々ジュースやお菓子を持ち込み、ほかの学校の作ってた製作物について、あれはよかったな、とか、あの学校のシステムはうちのやつにも取り入れられそうだなとか、ある種オタクな面々と語り合う。

てか、オタクでないとあんな緻密な作業なんてやってられないからな~。

しかし、企業にも認められるシステムを開発できて、工科大学への推薦をもらえる算段がついたなと、俺たち新3年はちょっと浮かれてもいた(笑)

姉貴が行ってる、うちの附属高校の上に位置する敬愛大には工学系ないんだよな。


 親父との約束もあったし、寄り道もせずに帰宅したら、リビングに箱がデデンと3つ置かれていた。パッケージを見ると、明らかにパソコン関係だ。


「お、俺のお帰り。これだよ、頼みたかったの」

「パソコンだよな、誰の? 親父の?」

「そう。俺のコンピューター」

「どしたの。これまで自分は製造ラインだからいらないとかって、興味もなさそうだったじゃん」

「それがさ、どうやら夏ごろから、部署変わるらしくって、どうも書類作ったりメールしたりあれこれしないといけないってんで、覚えるように上から言われちゃったんだよな」

「あーーーーー」


 とりあえず、組み立てるところから始める。こういうのはお手の物だ。

 パソコンの設定も、親父と相談しながらさくさく進める。

 まあ、あっという間にそれは終わって、さすがだなあなんて親父のことばにまあなと返す。

 

「で、メールと、書類? だったら入力する練習からか」

「そうだよな、やっぱ、覚えないといけないよな」


 いまいち自信なさげな親父に、横から母さんがひとこと突っ込んできた。


「お父さんは、電子レンジさえおっかなびっくりで使ってるでしょ」


 ああ、確かに。なんかネットで、仕事でめちゃ難しい機械使ってるのに、家電に疎い男性が多かったりするなんて書かれてるの見たことあるけど、親父もそうだもんな。


「ああ、それから、アレとコレは必須らしくて、それできないと仕事できないみたいだ」

「なに、アレとかコレって」

「え、このパソコンにはそれ入ってないのか?」


「え、それって、もしかしなくても、親父の会社の専用ソフトじゃないか? そりゃ無理だよ」

「え~~。練習できないじゃないか」


 親父が肩を落とす。

 まさか、そこからとは思わなかった。


「あのな、親父。パソコンがあったらなんでもできるなんてことはないの」

「え、そうなの」

「そ。いうなれば、パソコンはデータを処理する箱で、そこに、ソフト、ま、スマホでいうところのアプリな。それをインストールして、できることの幅が広がるんだ」

「そうかあ……。箱かあ」


 おい、大丈夫か、親父。


「でもほら、まずは何するにも文字入力は必要だから、ちょっと休憩したらやろうぜ」


 はぁ。どうやらまずは、親父を復活させるソフトが必要みたいだな。

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