箱の中の約束

あらやん

第1話

 風が強く吹く日、街の片隅にある小さなカフェで物語は始まる。


「またあの箱の話?」


店の常連、ミナトはいつものようにカウンターに座り、友人のサユリに苦笑いを浮かべながら尋ねた。


「うん、だって不思議じゃない?誰が置いたのかわからない、中身もわからない箱が、ずっとここにあるんだもの。」


サユリは、店の片隅にひっそりと置かれた小さな木製の箱を見つめながら言った。


「ふーん、でもさ、開けられない箱になんの意味があるの?」


ミナトはコーヒーを一口飲みながら続けた。


「それを知りたいの!だから、ミナト、手伝ってよ。」


サユリは目を輝かせながら言った。


 この二人は小さい頃からの幼なじみで、共に成長し、お互いのことを何でも話せる仲だった。しかし、サユリがこの箱に執着するようになってから、ミナトは少しずつ彼女の中に見知らぬ距離を感じ始めていた。


「わかったよ、でも何から始めればいいんだ?」


ミナトは諦めが悪いのは知っていたが、サユリがこんなにも情熱を燃やす姿は珍しかった。


 そこから二人の探求が始まった。カフェのオーナーに箱の由来を尋ねたり、近隣の住人に話を聞いたりと、あらゆる手段を使って調べ上げたが、箱の謎は深まるばかりだった。


 ある日、サユリがカフェに入ると、ミナトがいつもの席でなにかを書き込んでいるのが見えた。


「ミナト、何してるの?」


サユリは好奇心旺盛に尋ねた。


「実はね、この箱、開ける方法があるかもしれないんだ。」


ミナトは真剣な表情で答えた。


「えっ、本当に?!」


サユリの目が輝いた。


「うん、でもね、一つだけ条件があるんだ。」


ミナトは少し照れくさそうに言った。


「この箱、"心からの願い"でしか開かないらしいんだ。」


「心からの願い…」


サユリは呟いた。


「さ、試してみるか?」


ミナトは箱をテーブルの上に置き、サユリに促した。


 二人は手を重ね、目を閉じて深く願った。


「この箱が、私たちの絆をもっと深めてくれますように。」


 静かな瞬間が過ぎ、何も起こらないように見えたが、突然、箱の蓋がゆっくりと開いた。中からは古い手紙と、二つの小さな鍵が出てきた。


 手紙にはこう書かれていた。「本当の愛を見つけた者へ。この箱と鍵は、あなたたちの未来への扉を開く鍵です。愛を育む勇気を持ち続けてください。」


 二人は見つめ合い、笑い合った。箱を開けることができたのは、彼らの心からの願いが真実だったから。そして、その瞬間から、彼らはただの友人ではなく、お互いに深い愛を感じるようになった。


 この小さなカフェで始まった、箱という名の不思議な出会いが、二人の新たな物語の扉を開いたのだった。


 そして、この物語はここで一つの結末を迎える。しかし、彼らの物語はまだ始まったばかり。箱が教えてくれたのは、愛を信じ、願い続ける勇気の大切さだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱の中の約束 あらやん @arataworks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ