マリとマリン 2in1 ボックス?

@tumarun

第1話 ボックス? 箱?

 地下鉄の地上の出入り口に翔と茉琳は、佇んでいる。

 翔の新築住宅掃除のアルバイト先で自爆というか、アクシデントをみずから防いだと言うことにしておきます。内装工事の不手際を示すことになり、謝礼代わりに翔が茉琳をエスコートして帰宅することになった。

 地下からの階段を登り切り外へ出た。すると出てすぐ、


「翔、宝くじだって」


 出入り口の建屋に隣接して一坪ほどのブースがあった。

 建屋の上には”宝くじ““BIG”と、大きな文字で書かれた大看板が取り付けられ、引き出し式のキャノピーの奥、表の半分ほどが透明なアクリルが貼られていてる。

 そして、そこには、くじの結果表が貼ってあり、金額ものせられている。なんか開運グッズみたいなものもディスプレイされていたりした。

 備え付けのカウンターには、数種類の数の未記入の申込チケットが並んでいる。くじを購入しにきている人が、アクリル板越しに奥にいる人と談笑しながら色々とやり取りをしているようだ。


「今って、立派な売り場になっているんだ」

「前はどうだったなしか?」

「前は、こう、せせこましくて小じんまりした掘立て小屋みたいなのに小さな窓があって、奥に売り子さんが隠れるように座っていたイメージがあるよ」

「このブースは、カラフルで楽しそうな感じがするなりな」


 建物自体、黄色や赤色とか明るめの色で塗られ、ポップな文字で飾られた幟も数本立っている。


「ウチ、宝くじって買った事ないし、折角だから買ってみるなり」

「そうか? 初めてなんだ。と、いうか俺もやっと買える年齢になったんだっけ」


 くじ自体ギャンブル性も高いこともあり、購入できるのは18歳以上ということのなっている。


「じゃあ、買ってみるか」

「うん」

 

 ブースに近づいくと既に当選したとばかりにホクホク顔でそこから離れる人たちとすれ違う。


「結構、買う人も多いな」

「みんな、幸せな顔をしているなり」

「当選が決まるまでが楽しみだって聞いてる。夢を買ううんだって」

「ウチたちも買うなりな」

「おう」


 窓口に行くと透明なアクリル板の向こうにエプロンをした女性のスタッフが座っている。


「いらっしゃいませ。何にされます?」

「ウチ、初めてなんよ。お勧めってあるなしか?」


 茉琳は、ウインド越しに貼られているインフォメーションをキョロキョロと見ている。


「初めてでいらっしゃるなら、スクラッチはいかがでしょう」


 スタッフはオープンディスプレイに展示されているカードサイズのくじを取り出して、カウンターとの境にある小窓から茉琳に見せた。


「このカードの銀色の部分を硬貨で削りますと絵が出できます。三つ並べはあたり。絵柄によって当選金額が違います」

「へえー」

「当選金は50000円以下でしたら、この場でお支払いいたします。10枚セットですが1枚からも購入できますよ」


 それを聞いて茉琳は目を輝かせる。


「すぐ、貰えるの。なら、ウチそれにするなり」


 茉琳は食いつき、小窓に取り憑く。


「どうどう、ちょって待ってよ茉琳。他のも聞いてみよう」

「ウチは牛さんじゃないなり! でも翔がいうなら聞いてもいいなしな。別のはあるなり?」

「オンラインはどうでしょうか?」

「オンライン?」


 茉琳は、聞きなれない言葉に小首を傾げる。


「数字を使ったくじなんですよ」


 茉琳の首が更に傾げる。


「うーん、ビンゴみたいなの?」

「はい。それはビンゴ5です。1から40の数字で縦、横、斜めに配置された数字選んで

あたれば当選となります」

「うー、難しそう。他には?」

「1から37まで数字を7個選ぶロト7, 1から43までの数字を6個選ぶロト6、これは当選金額が最大で億を超えます」

「うー、億は魅力 え。数字が増えて選ぶの大変なり。簡単なのはないなしか?」

「では、0から9までの数字から4つとか3つとか選ぶのは?」

「それぐらいなら、なんとかなりな」

「同じ数字を選んでも、並べてもいいのですね。買い方がストレート、ボックス、セットとあります。選び方は自由なんですね」 


 はたまた、茉琳の首が傾げる。


「ストレートはなんとなくわかるなり。ボックス? 箱? 箱買いなんてできるなしか?」

「ふふ、箱買い? そんなに買ったら、お小遣いなくなりますよ。ボックスは数字があたれば当選。順番は関係ないのですね。ストレートは選んだ数字と並びが一致して当然。当選金額は一番高いですね」


 茉琳はパネルに貼られた結果表を見た。


「本当なり、ストレートなら、百万円超える時もあるなし、ボックスは一桁なり」


 その分、当選確率はストレートは低いし、ボックスの方が当たりやすいですよ」


「買い方も難しいなりな」


 茉琳は顳顬に指を当てて悩み出した。買うつもりなんだろけど、


「茉琳、後ろに並んでいる人たちが増えてる。早くしないと」


 翔がたまたま、後ろを振りかえり、びっくりしていた。


「でもぉ」

「そこで両方を兼ねた セット もあるわけなんですよ。当選金はほぼ半分になりますが」

「えっ、そうなり。じゃあ、ウチはナンバーズの4桁にするなしね」

「はい。ではそこにある棚からナンバーズ4のチケットをお取りくだなさいませ。手元の鉛

筆で数字を選んでマークしてくださいませ」


 はたまた、茉琳が顳顬に指を当てて悩みだした。


「悩むっちゃ。そうだ翔なら何選ぶなし?」

「俺に振るなって。自分で決めろよ。誕生日、電話の番号…えーっと」


 茉琳の悩み癖が翔にまで伝染し多様だった。


「わかったしー。誕生日にしてみるなりな」


 茉琳はカードに鉛筆でマークしていく。そして小窓を通してスタッフに渡していく。

代わりに小窓から代金を入れるカルトンが出された。


「代金はこちらにお願いします」


ビクン、


 彼女の肩が振れた、茉琳は自分の黄色の長財布に硬貨が1枚しか残っていないことに気づく。長財布とカルトンを交互に見て、


「翔、どうしよう。お金ないなり」


 そして側にいた翔に振り向くと、情けない声を上げる。


「なにぃ、ないのに頼んだの?」

「うん」

「えー」


 三度、茉琳の目に涙が溜まる。


「翔のバイト先にタクシーで行ったなり、お金出したら、何にもなかったなしね、忘れてたなり」

「カードとかはないの?」


 とうとう、瞼から流れ出す。

「やっと、翔のとこに着いた時にポケットの中で財布とスマホが重なってて、タクシーでも使えなかったなり」

「だから、現金でタクシー代を払って、すっからかんになったと」

「うん」

「なんで早く、それを言わないの?」


 アルバイト先の親方に帰りを翔がエスコートをしろと言われて、バスも地下鉄も彼が全額支払っていて、茉琳は自分の財布を見ていなかったりする。


「あっちで翔の顔が見られて嬉しかったなり、それで…忘れちった」

「お、おま、お前な……」


 マリンは自分が怒られると思い、肩を竦めて目を瞑る。

翔は、茉琳を手まで挙げて叱ろうとしたけど、それを見て動けなくなってしまった。そして、彼は嘆息をして、


「わかったよ。俺が出しておくから」


 翔は、窓越しにスタッフに頼んでいく。


「すいませんコード決済してもらえますか」


 窓の向こうのスタッフの動きが忙しくなった。翔側から見えないがパネルの上で指のうごきが激しい。言葉には出ていないけど不機嫌さをアクリル板を通じて感じ取ってしまう。かなりの手間を要すようだ。


 そうして、


「スマホの画面をこちらに」


 と、手で小窓を指し示す。翔が出したスマホの画面をリーダーでスキャンした。


「アプリをお持ちですか? ポイントどうされます?」


 感情抑えて対応するスタッフを翔は尊敬してしまった。プロだと。

 プリンターがチケットを吐き出す。それを手に取りスタッフは翔達にみせて、


「これでよろしいでしょうか。お間違えありませんね」

「はいい、大丈夫です」

「袋は御入りでしょうか」

「どうも、本日はありがとう御座いました。また残しをお待ちております」


 スタッフはマニュアル通りに話してくるのだが、それを知らない翔は気が気でなかった。

 そんな素振りを見せずに不機嫌の嵐が止んでいないように見えたんだ。

チケットを受け取り、2人はブースを離れる。

 立ち寄った時のウキウキした気分が吹き飛んでしまった。


 トボトボと帰路についていく。



 因みに翌日のニュースで末等が当たっていたことがわかった。たぶんビギナーズラックであろうと2人で話をしている。

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