第5話 おっさんVS生意気な冒険者
「おい、待てよおっさん」
「うん?」
早速フィオナを連れて村を出ていこうとすると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
振り返ってみるとそこには【エンバリオン】の面々がいた。
特に先頭に立つヘリオスは苛立ちを隠そうともせず、こちらに剥き身の大剣を向けている。
「なに勝手にオレの仲間を連れていこうとしてんだよ」
「いや、着いてくるって言ったのは彼女の方だぞ? 嬢ちゃん、話付けてきたんじゃなかったのか?」
「ちゃんとパーティ抜けます! って言ってから来ましたよ? ヘリオスさんも認めてくれましたよね?」
「……急な話だったが、どうしても脱退したいと言われたから仕方なく認めた。もともと短期間の契約だったからな。だがおっさん。アンタと一緒に行くなんて話は聞いてねえぞ。一体どんな汚い手を使ってフィオナを口説いたんだ? オレはそんなの認められないぞ!」
おいおい、全然話まとまってないじゃないか。
まあでも確かにパーティを抜けてすぐに別の怪しいおっさんと一緒に行動し始めたらおかしいと思われても仕方がないか。
それと意外だったのが、あのヘリオスがパーティの脱退そのものは認めたってことだ。
この男の性格なら強引にでも阻止しそうなものだが……
それはそれとして参ったな。
別にフィオナを返せと言うのであればお返ししますと言いたいところではあるんだが、
「そういう事なら――」
「……ダメです」
俺の心を読んだのか、俺の服をつまんでじっと視線で訴えかけてきた。
困ったなぁ……当の本人に帰る気がさらさらないのであれば、強引に押し付けるわけにもいかない。
「なあフィオナ。本当にオレのパーティを抜けて、そんなおっさんに着いていく気か? 今ならまだ取り消せるぞ。悪いことは言わないから戻ってこい」
「ごめんなさいヘリオスさん。でも私もう決めちゃったんです。それに私の目的もユーヤさんに付いていけば叶うので!」
「――そうか。なぁおっさん」
「なんだ?」
「オレと勝負しろ」
「――へ?」
「オレに勝ったらフィオナを連れていくのに相応しい男だと認めてやる。だが負けたら……強引にでもフィオナを返してもらう」
何様なんだお前、と言う言葉が出かかったが、喉の奥に押し込めた。
フィオナはモノじゃないんだぞと言いたくなったが、もしかするとこれはヘリオスなりのケジメのつもりなのかもしれない。
戦うことで満足するのであれば、それくらいは受けてやろう。
「そんな勝手な! もう、行きましょうユーヤさん。こんなの受けなくたって私は――」
「いいよ」
「――えっ?」
「勝負に勝てば認めてくれるんだろ? それならやろうぜ」
「言ったな? オレの仲間に手を出したこと、後悔させてやる」
俺が勝負を受ける意思を示すと、ヘリオスはにやりと笑いこちらを挑発した。
別に俺から手を出したわけじゃねえって言っているのに、困った奴だ。
まあさっさと終わらせて次の町へ行こう。
その後、ヘリオスの案内で村から出た先にある開けた場所へ来た。
「ここで一対一の勝負だ。一応殺さないように手加減はしてやるから安心してかかってきな」
「別に殺す気で来てくれても構わんぞ。それに一対一でいいのか? そこのお仲間二人も一緒でいいぞ」
「――その舐めた態度がムカつくんだよっ!!」
開始宣言もなく、いきなり大剣を大きく振りかぶって突っ込んできた。
直情的で読みやすいが、速度はなかなかのものだ。
流石腐ってもAランクの冒険者を名乗るだけのことはある。
「ホーリーブレイクッ!!」
「――っと、危ない危ない」
手加減するという先ほどの言葉は何だったのか。
光属性魔法を乗せた重い一撃が頭めがけて飛んできたので、俺は右側に避けてそれを回避。
直前で左にずらして直撃させないようにしたヘリオスだったが、まさか俺の回避が間に合うと思っていなかったのか、驚きの表情を浮かべる。
しかしすぐさま振り下ろした大剣を横なぎしてきた。
俺の実力を認めたのか、今度はずらす気はないらしい。
仕方がないので俺は異空間ボックスから一振りの直剣を取り出してヘリオスの剣を受ける。
二撃目にしてはなかなかの重さだ。
「そのまま吹っ飛べ!」
「む……」
直後、ヘリオスの剣が輝きを増し、俺の剣にかかる負担が一気に大きくなる。
このまま力業で強引に押し切ろうという訳か。
悪くない選択肢ではある――が、相手が悪い。
「筋は良い。が、届かないな。よっと」
「――えっ?」
俺は体と剣を斜め下にずらし、そのまま剣を上に振り上げた。
するとヘリオスの手から剣が離れ、空中へ投げ出されたそれは遠くへ飛んで行ってしまった。
大剣を振るうヘリオスの腕はすっかり伸び切っていたので、こうして別ベクトルの力を加えてやれば、その勢いを殺しきれず剣を手放してしまう。
「一応勝負だからな。決着はつけさせてもらうぞ」
「な――」
獲物を失い困惑するヘリオスに、先ほど彼が使ったモノと同じ光属性魔法を纏わせた剣で腹に峰打ちをたたき込む。
「がっ、はっ……」
手加減したとはいえかなり強烈な一撃だ。
ヘリオスは立っていることすらできなくなり、胃の中身をぶちまけながらその場に倒れ込む。
「勝負ありだな。それじゃあフィオナは連れて行かせてもらうぜ」
「…………」
返事はなかった。
なんかこれじゃあ俺が悪者みたいな構図になって少し嫌なんだが、この勝負はヘリオスが望んだものだ。
結果としては悪くはないだろうと思い、俺は剣をしまってヘリオスに背を向けた。
「まさかヘリオスがあんな簡単にやられるとは――」
「あの人、そんな強かったの……?」
後ろから彼の仲間の声が聞こえてきたが、挑んでくる様子はなかったのでそのままフィオナの下へ向かった。
「凄いですユーヤさん! 流石カオ――元凄腕の冒険者さん!」
危うくカオスドラゴンを倒したとか口走りそうになったフィオナだったが、俺との約束を覚えていたのか誤魔化した。
大衆からの賞賛の言葉は聞き慣れているが、こうして美少女にまっすぐな笑顔で褒められるとなんだか少し照れ臭い。
でもまあ、悪い気分ではないかな。
最強おっさん、異世界に逃亡する~世界を救い過ぎて疲れたので女神の加護を奪って逃げだしたら、美少女ハーレムライフが待っていた~ あかね @akanenovel1
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