第4話 おっさんと旅のお供
あれから一夜が明け、俺は例の冒険者たちの後を付けてカオスドラゴンの巣まで来ていた。
決して彼らには気づかれないように後ろから見守る。
冒険者としての俺の勘がアイツらはこのままだとヤバいと言っているので、心配が勝って来てしまった。
女神に見つかるリスクは少しでも減らしたいからなるべく目立った真似はしたくないと思っているものの、どうにも体に染みついたこの癖みたいなものはそう簡単には拭えないらしい。
俺の近くで俺の見知ったやつが死ぬのは大嫌いだ。
それがたとえ付き合いが浅かろうが深かろうが、もし俺が介入することで救えた命だと分かったら後悔しちまう。
そんな俺のエゴでここまで足を運んだわけだが、
「あいつ等、結構やるじゃないか」
【エンバリオン】は俺が想像していたより強かった。
剣士、盾役、魔法使い、ヒーラーとバランスの良いパーティで、しっかりと連携もとれている。
あのヘリオスも大口叩くだけあって剣の威力はなかなかのものだ。
カオスドラゴンを着実に削っているのが分かる。
だが――
「へっ、今のは効いただろ! このままトドメと行こうぜ――え?」
大きな一撃を加えたヘリオスが間の抜けた声を漏らす。
そう。カオスドラゴンは普段は火の属性を纏って戦うのだが、追いつめられるとその属性を反転させ、氷の力を操るようになる性質がある。
その際に冷気を爆発させばら撒く習性があるので、対策を怠った冒険者たちは体勢を崩されてそのまま氷像になるパターンが多い。
「……ダメそうだなこりゃ」
経過を見守っていると、案の定お守りを渡したフィオナ以外の三人は見事に氷漬けになってしまっていた。
こうなってしまうと外部から助けを貰わないと一生氷像のままだ。
残されたフィオナはヒーラー。いまだ健在のカオスドラゴンの相手をしながら仲間を助けるのは困難だろう。
「仕方ないな」
俺はフィオナの前に飛び出し、一瞬のうちにカオスドラゴンの首を刎ねた。
彼らには悪いが、この程度の奴は俺の敵じゃない。
ドラゴンの首が落ちたのを確認し、振り返ると、そこには何か輝かしいモノを見るような眼をしたフィオナがいた。
「これをアイツらに貼ってやれ。少し経てば氷が溶けるから」
そう言って俺は三枚のお札をフィオナに手渡す。
それは解氷の術式が組まれた札だ。
「あと出来れば俺がここに来たってことは黙っていてくれないか? ドラゴンは勝手に倒れたってことにでもしといてくれ」
「あ、あのっ!」
「それじゃあ帰り、気を付けてな」
フィオナが何かを言おうとしていたけれど、俺はあえてそれを無視して帰路についた。
ここまで出しゃばっておいてなんだが、彼らにもメンツとプライドがあるだろうし、俺は別に手柄が欲しいわけではないのでこれでいいと思う。
さて、一仕事終えたことだし今日も酒場で酒を頂くとしようか。
♢♢♢
しばらくすると【エンバリオン】の面々が村に帰ってきたらしく、外が賑わっているのを感じた。
俺はお構いなしにのんびりと酒を飲んでいたのだが、やがて彼らはこの酒場に入店してきた。
「おお、ドラゴン討伐お疲れさん。上手く行ったんだろ?」
「ふ、ふん。当然だろう。この剣の錆にしてくれたわ」
「そうかそうか。それならおじさんも一安心だわ。ひとつ祝いに奢ってやろうか?」
「いらねーよ」
「まあそう言うなって」
どうやらフィオナはちゃんと俺のことは黙っていてくれたようで、ヘリオス達も若干の疑問を持ちながらも自分たちで倒したという事で納得しているようだ。
どうせ彼らと話すのはこれが最後だろうし、冒険者の先輩として奢ってやろう。
かつてこの世界で冒険者としてたんまり稼いだお金は全て異空間ボックスに保管してあるので、これから死ぬまで豪遊して暮らせるくらいは手持ちがある。
もう一生分以上は働いた自覚があるので、これから先はこの金を使ってのんびりスローライフを楽しむってのも悪くない。
そんなことを考えながらゆっくりを酒を楽しんだ。
そして翌日。
村を出ようとした俺の下に、何故かフィオナが一人でやってきた。
「お願いしますユーヤさん! 私も一緒に連れて行ってください!」
「……へ? い、いや、君は彼らの……【エンバリオン】のメンバーだろう?」
「ヘリオスさんにお願いしてパーティは抜けてきました!」
満面の笑みを浮かべて言うフィオナ。
え、この子こんなに行動力あったの?
と言うかもう抜けてきたって、取り返しがつかないんじゃ……
「俺みたいなおっさんに付いてきても面白い事なんかないと思うんだけど……もう一度考え直したらどうかな?」
「むぅ……ユーヤさんは私が一緒だと嫌なんですか?」
「い、いや、別にそんなことは無いけれど……」
「じゃあ連れて行ってください! お邪魔はしないので!」
どうしよう。
今の俺は冒険者ですらないし、特に何か目的がある訳ではないのだが……
まあでも旅のお供が一人くらいいてもいいのかもしれない。
それがこんな美少女だったらなお良いというもの。
「……分かった。じゃあ一緒に行こうか」
「はいっ!」
ああ、おっさんにはあまりに眩しすぎる笑顔だ。
ここで彼女を連れていく選択肢を取ったことでどんな未来が待っているのかは分からないけれど、せっかくクソ女神から解放されたんだ。
今度は義務ではなく、思う存分この世界を巡って楽しんでみようではないか。
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