第3話 憧れのヒト(フィオナ視点)
私の名前はフィオナ。
Aランク冒険者チーム【エンバリオン】に所属するヒーラーです。
私たちは今、ナフィル村近くに発生したカオスドラゴンの討伐に来ています。
と言うかまさに今戦っている状況で、剣士のヘリオスさんを中心にひし形の陣形を組んでカオスドラゴンを迎え撃っています。
カオスドラゴンは蛇のような細長い黒い体に赤色の炎を渦巻く巨大なドラゴンです。
ひとたび動けば周囲に炎が燃え広がり、周囲の木々が吹き飛ばされていきます。
それを魔法使いのリーゼさんが水魔法で鎮火しつつ、ドラゴンの逃げ場を塞ぐように攻撃魔法を仕掛け、その隙をヘリオスさんが取る。
もし彼らにドラゴンの攻撃が当たってしまったら私が即座に回復魔法で癒し、すぐに戦線に復帰してもらう。
と言った戦い方を続けていると、徐々にドラゴンの体に傷が増えていき、私たちは確実に勝利へと向かっていることを実感します。
「オラァッ! そろそろくたばれ、やっ!」
リーゼさんの水魔法が炸裂し、ドラゴンの首が大きくのけぞったタイミングでヘリオスさんが大きく地面をけり上げ、光魔法でコーティングした超巨大な剣を一気に振り下ろしました。
これは決まった。
ヘリオスさんだけではなく、見ていた私たちもそう確信しました。
ドラゴンの胸元には大きな切り傷が刻み込まれ、もうあと少しで息の根を止めれるところまで来ている。
「へっ、今のは効いただろ! このままトドメと行こうぜ――え?」
「ちょちょっ、なにあれ――きゃあっ!?」
地面に倒れ落ちたドラゴンの首めがけて再びヘリオスさんが大きく剣を構えたところ、突如としてドラゴンを中心に
炎は消え失せ、先ほどまで赤く渦巻いていた部分は青く染まり、大声で咆哮しながら再び空へと飛び出すカオスドラゴン。
次の瞬間、大きな口を開けたドラゴンから凄まじい冷気が飛んできて――
「あ。えっ……?」
大きく吹き飛ばされた私たちに、それを避ける術はありませんでした。
大きなダメージを覚悟しながらもせめて自分の身を護ろうと結界を展開しようとしますが、
「ダメ……間に合わないっ!」
動き出すのが遅すぎました。
結界は間に合わない。どうしようどうしようと考えても答えが浮かんでこなくて、私に出来たのは両手を顔の前に交差することだけ。
直後、視界が白に染まりました。
「……?」
あれ、冷たく、ない?
瞑っていた眼を開くと、私の目の前には赤く輝くお守りがありました。
お守りから漏れ出た温かい赤色の光が私を包み、冷気から私を護っています。
これって――昨日酒場で出会ったあの男性がくれたお守り……
「カオスドラゴンと戦うならそいつを持っておくといい。いざと言うときに役立つかもしれん」
そう言ってたけれど、本当に護ってくれるなんて……
やっぱり
子供の頃、私の命を救ってくれた大恩人。
とっても強くて、とっても優しくて、それでいていつも傷だらけだったあの人。
私がヒーラーの冒険者を志した最大の理由。
いつかあの人の隣に立って戦えるようになりたいと、そう思って今日まで生きてきた。
私の憧れのあの人にとても良く似た雰囲気を持つあの男性。
年を取って容姿はだいぶ変わっていたし、私とは会ったことないって言っていたから私の思い違いなのかもしれないけれど、この暖かさはやっぱり――
「……あっ!」
冷気が晴れ、徐々に視界が色を取り戻していく。
周りを見ると、辺り一面が氷漬けになっていました。。
それは木々や地面だけではなく、仲間のヘリオスさんたちも例外ではありませんでした。
「ど、どうしよう。氷を溶かす魔法なんて私、覚えてない……」
私はヒーラーとしてはそこそこの力があると自負していますが、一人でこんな凶悪なモンスターと戦う事なんてできません。
逃げなきゃ。そう思ったけれど、ヘリオスさんたちをこのまま放置するわけにもいきません。
どうしよう。どうしよう。
思考が整理できない。
一旦逃げて、冒険者ギルドに応援を依頼するのが正しい動きなのは分かっているけれどそしたらヘリオスさんたちはきっと助からない。
私が何とかしなきゃいけないんだ。
そうだ! このお守りをみんなに渡せば氷が解けるのではないだろうか。
そう思った私はすぐさま行動に移そうとします。
しかしそれを許さない存在が一つ。
カオスドラゴンです。
冷気から生き残った私をじっと見つめています。
もうドラゴンの方も限界が近いはずなのに、その覇気には一切の衰えがありません。
そしてドラゴンは再び大きな口を開けて――
もう駄目だ。そう悟った次の瞬間。
「――ったく、やっぱりこうなったか。念のために後を付けて来てよかったぜ」
ドラゴンの首が宙を舞っていました。
閃光のような斬撃。私の目では負いきれなかった。
「さて、大丈夫かい。お嬢さん」
「あ――」
そう言って振り返ってにこやかに語りかけてくるその様は、私があの日見たものと同じ。
絶対的な安心感を与えてくれる、最高の冒険者のものでした。
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