ペンギンによる我が家の大侵略

はぴ2580

ペンギン。我が家を侵略する

我、社畜。現在8徹也。何故、我、8徹。








俺はそこら辺の大都市から2時間ぐらいの郊外に住んでる一般社畜。



「……そういえば、今日、俺誕生日」


帰りの満員電車に揺られつつ、頭の中に浮かんだ言葉を食い止める口は8徹であきっぱなので、電車の雑音に混ざる。



この路線は、8時台が1番混む。俺と同じような顔をしたサラリーマンは立ちつり革を無気力に掴んでいる。

傍から見れば明らかにゾンビ。いや、中身だけゾンビとかいうたちが悪すぎる奴らがずらっと並んでいる。



かくいう俺もそのゾンビである。

隣に方がぶつかっても気に止める人はごく1部。四捨五入すればいないと言ってもいい。



運悪く出入口付近にたっていたために左側が開く時は運の無さにとことん絶望している。

段々とドアに近づき、最寄りまで次の駅となるまでには、ドアに俺の吐息の跡がつくほど押し付けられていた。



………………………………………………………………



「ドァが開きまぁす。ご注意ください。」

機械音声が訛ってるアナウンスを横目にようやく最寄りに着く。


郊外は社畜が多いのか。背筋が伸びていても肩を見れば中身ゾンビかなんてすぐに分かる。一見すれば立派なサラリーマンも、全員終わった生活をしてるのだろう。




今日もビールを買って晩酌でも決めてやろうと改札すぐ横のこじんまりとしたコンビニに入る。


パンコーナーを颯爽と横切った先には、至福の冷蔵庫。上から下までビールで埋めつくされたその冷蔵庫。良ければうちにも欲しい。


普段通りプレモルを手に取り、上司のストレス発散分として下の方からもビールを取ろうとした時だった。




目が合ったのだ。

なぜ冷蔵庫で目が合うのか。

目が合って1秒。その体全てを目に焼き移すこととなった。







ペンギンだった。


はっきりと別れた白と黒の体毛。八徹の目にはつらいが、よく見ればフサフサである。


ビールを取り巻きとして真ん中に居座るでかいペンギン。存在感がデカすぎる。目が合ったことにこいつも気がついているのか。こちらをじっと見つめ続けている。



ああ、これも八徹の影響かと、病院も真っ青だろうなあと。おもむろにペンギンを手に取った。


目を合わすのをやめ、羽の毛繕いを始めた。両方丁寧にしている。肝が座りすぎている。



「おお〜、でけぇなあ。」

「グェッ」


「うおっ、鳴いた」


短い。だがちゃんと鳴いてる。手触りや重量が明らかにロボットとかぬいぐるみの類では無い。重い。



学生時代に柔道をやっていたから持ち上げられたが、柔道をやっていなかったら持ち上げられなかった。



とりあえず駄菓子屋のような小さい色つきカゴにペンギンをビールとぶち込み、その他煮卵だったりチャーシューだったり枝豆だったり晩酌用のツマミをカゴに入れてレジに向かった。




「お願いします」

「はい!お箸や袋はお付けしますか?」

「どっちもお願いします。」


元気な学生である。研修中の札を胸に着けた若々しさはいささか心に刺さる。俺の後輩もこんだけ素直ならな。


「合計で1368円です!お支払いはどうされますか!」

疑問形ではなく、文末に「!」がついてるような話し方。この時間帯にいるには元気すぎる。いいな


「Suicaで」 「はーい!」


ピッ 「グェッ」


「……」


こいつ、そういえばレジ通されたのか?てか商品なのか?知るかよ。てかなんでこいつはレジにいるんだ?

、あー俺が持ってきたのか。


「お手吹き付けときますね!ありがとうございました!」


「ありがとうございました〜」「グェッ」


なんだお前。


レジから綺麗にジャンプして着地したあと、何故か俺の方を向いている。

さっきから短い鳴き声出しやがって。なんだ?


「グェッ!」


「どうかされました?」「あっ、いやなんでもないです」



こいつは恐らく他の奴には認識されてないんだろう。

どう考えても店員の足を嘴で突っついてんのに反応されてない。馬鹿だなこいつ。



コンビニに長居するとかいう意味不明な行動を避けたかったのでさっさと自動ドアをくぐる。


そこで今かとでも言うかのように、ペンギンがペタペタと足音を立てて後ろを着いてきた。


「…………」 「…………グェ」


数秒間の見つめ合いが再び発生した。

電車が来ない時は駅構内に人はほぼ通らない。今がそう。


「……グェッ!」

「……うわいだ!」


こいつ俺のくるぶしを的確に狙ってきやがった!靴下とスーツをかいくぐってそこ狙うのな!




「……まもなく、〇〇行き電車が参ります。まもなく……」



噛みつかれないようにするペンギンと俺の攻防はアナウンスで一旦止まった。

他人に一人でワチャワチャしてるところを見られたくないのが俺。一方何故か噛みつきたいペンギン。


俺はいたし方なく、コンビニのビールコーナーでこいつを持ち上げた後悔で歯を軋ませながらバッグにこいつを背負って帰宅した。



カバンから頭がはみ出ていたので、傍から見ればカバンを半開きで帰宅する限界社畜民であっただろう。


限界なのは別に開けてても開けなくても一緒のため関係は無いがな。




移動中はこいつも静かだった。そのままで静かでいてくれと懇願し続けていた。







………………………………………………………





様々な音が微かに響く住宅路を抜け、舗装路なのか怪しい道を通った。ようやっと自宅である。

よく、帰路は足取りが軽いと言うやつがいるが、俺はそいつらを信用していない。真の社畜は帰路ですら次の出勤までの睡眠ロスである。



軋む鉄階段を怒られないようゆっくり上がり、端っこの部屋まで直行する。




8徹の体は限界だった。ドアを開け、靴を脱ぐまでもなく膝をつき、一応バックをそっと置く。私はそこで記憶を失った。

時たま夢に「グェッ!!」と呼びかける声が聞こえたが、私にはよく分からなかった。そう、分からなかった。











「……グェッ!!!!」


「……いて」


おもっきり頭皮をかじられた。私の睡眠時間はないらしい。手で触れてみれば少し赤い。


「……まいっか。」



数十分の睡眠でも体を動かせるようになるとは驚きだった。自分の体の頑丈さに少しイラつく。



ビールを飲む気は失せ、ツマミ共々冷蔵庫に入れてベットに向かう。


結局布団にくるまれるのが1番の幸福なのだ。


ペンギンは黙って着いてくる。なぜ着いてくるんだろうか。分からないが。気にするほど余裕が無いのが現状。いつか保健所に突き出してやる。






「アア……布団……だ……」


確信した。残り数十秒で意識が飛ぶことを。

8徹でも、久しぶりに家に帰っても当たり前のようにある布団が一番好きだ。


「……グェッ……グェッ」 ノソノソ


「うわお前、、入ってくんのか」


「グェッ」


横にあいつが入ってきた。ほんとにクチバシ硬いしつつくの痛いから顔面同士向き合いたくない。


背を向けて見ると突っつかれた。ツンデレかよ。


結局向き合ってペンギンを観察しながら寝ることとなった。でも、こいつ暖かいから数十秒経てば許せた。




なんでこいつが着いてくんのかもわかんないし、こいつがビールと一緒に売られてた……?理由も知らんけど、こいつには絶対負けないからな。




「グェッ!」



「いて!寝させろ!」


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