第24話 肝試し

「イェーイ!夏の海といえば肝試しでしょう!だから、ここに来たの!ポポロス島の有名なダンジョン!」


「はあ。こうなると思ったよ。」


いつも通りのテンションの低い私に対して、アカネは得意げな顔を見せる。


「この島の住人たちは大変な困りごとを抱えてるのよ!夜になると不思議な音が聞こえたり、浮かぶ光点を目撃したり、物が勝手に動いたり!そんな現象が皆、幽霊の仕業だと言ってるわ!この時こそ、勇者の私が出動する時!」


アカネはダンジョンの奥を指差す。


「変なことが起きたら、まずは魔物の仕業と疑うべき!魔物と言えばダンジョンでしょう!だからまずは、ダンジョンの異変を調査することが先決!」


「つまり、一連の騒動はダンジョンの魔物が暴れ出した可能性が高いってこと?」


「正解!」


「…村人を無料で助けるとか、金にならないことは阻止しないけど、せめて昼間に来てよ。もう夜だし、正直、眠いんだけど。」


「ええっ!マヨイちゃん、もう眠いの?」


「私は早寝早起きが習慣だ。夜な夜な動画を見て生産性のないことをしてる勇崎さんとは違う。」


「むぅ!生産性がないわけじゃないもん!配信者として他の配信を観るのも大事な勉強なのよ!」


「はいはい、そういうことにしておこうか。」


あくびを一つして、私は周りを見渡す。ダンジョン内部では鬼火のような光が漂っており、壊れた壁が浅い海水に浸かっている。風が吹いているせいか、ダンジョンの奥からはうめき声のような反響が聞こえる。


「なるほどね。肝試しとしては雰囲気がいい。でも、ちょっと異常だね。ここまで来ても魔物に一匹も遭遇してない。ここにいるはずの魔物は何?」


「うーんとね…パンフレットによると、海洋生物みたいな魔物だって。ヤドカリやヒトデみたいなの。」


「ふむ、そういった残骸も見当たらないね。最悪のシナリオを想像すると、何かが食べちゃったのかもしれない。ダンジョン内に現れた強力な魔物が原住民の魔物を大量に減らし、さらにダンジョンを離れて住民を悩ませている可能性がある。もしそうなら、早急に解決すべき事態だね。」


「だから私たちが問題の根源を早く見つけ出さなきゃ!」


「残業代、申請しておくよ。」


私たちはダンジョンの探索を続けていた。夜のダンジョンからは水の流れや波の音が聞こえ、まるで何かが悲鳴を上げているかのようだった。何もないダンジョンを歩き続けたが、成果は得られなかった。


「…これは本当に奇妙だ。どう考えても、あまりにも空っぽだよね。」


ついにボス部屋の奥深くに到着した時、アカネは疑問の表情を浮かべた。


私はボス部屋の扉に耳を近づけながら、聴診器ちょうしんきのような魔道具を取り出した。


「それ、何?」


「前回の反省から購入した探知用の魔道具だよ。勇崎さん、ちょっと静かにしてて。」


注意深く扉の向こうの音を聴き取り、小さな兆候も逃さないようにした。


「...扉の向こうに何かがいる。」


「っ!何か聞こえる?」


「はっきりとはわからないけど、呪文を唱える声みたいだ。」


「それがこのダンジョンの異変の原因かもしれないね。さあ、突入しよう!」


「いや、この段階では慎重に行動した方がいい。まずは扉を少し開けて、次の行動を決めるほうが安全だ。」


「むっ。マヨイちゃんがそう言うなら…」


私はそっと扉を開けた瞬間、目の前の光景に目を見張った。


目に映ったのは、魔物の山だった。山の麓には青い光を放つ魔法陣があり、その近くで背が曲がった人物が長い杖を振りながら呪文を唱えていた。その体形から、どうにかして女性だと判断できた。


魔物の山の頂上には、紫がかった黒髪で、頭に角を持つ少女が座っていた。


その角を持つ少女は、先ほど出会ったばかりの鬼、夜華リンドウだった。


「っ!」


息を潜め、さらに注意深く観察を続ける中で、鬼は呪文を唱える女性に向かって不満そうに話しかけた。


「お前、これいつまで続く?もう一晩中ここに座ってるが、本当に何か面白い結果が出るよな?」


「ふふ、大丈夫だよ。すべては理論の範囲内だから。」


「それならいいが、我が一晩中雑魚を叩き潰して、もし結果がつまらなかったら、お前を許さないからな。」


「心配しないで。もうすぐ完成するから。」


猫背の少女が不気味な笑みを浮かべた。


「ぐっへへ。これで、第二十号の人工魔王ちゃんが完成するわ。そんなに焦らないで。今回はきっとあなたを驚かせてみせるわ。」


「ふん、人工魔王か。まだこんなことをやってる奴がいるとはな。お前のその『魔王』と呼ばれる玩具がどれほどのものか、見せてもらおうじゃないか。」


「彼女たち、さっき魔王って言ったの?マヨイちゃん!」


「ええ、これ以上見過ごすわけにはいかないね。行くよ!」


「うん!」


深呼吸を一つして、私とアカネは力を込めて扉を押し開けた。

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狐娘に転生したら聖剣を護る一族でした。金のために勇者と共にダンジョン配信を行う。 浜彦 @Hamahiko

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