開けて嬉しいびっくり箱?

ちかえ

びっくり箱なんかいらない

「ポーラ、これもしよかったら受け取ってくれるかな」


 クラスメイトのボブが恥ずかしそうに渡してきた箱に、ポーラはつい眉をひそめてしまった。


「こんなもの、私に渡してどうするつもり?」


 ポーラの厳しい声に、ボブは戸惑ったように一歩下がる。でも、戸惑いたいのはポーラの方である。


 形状からしてわかる。これは魔術の授業で作ったびっくり箱である。ポーラも作ったのでよく知っている。


 ボブはこれでポーラをからかうつもりなのだろうか。別の男子と組んで、ポーラを馬鹿にするつもりなのだろうか。


 ちら、とものかげを見ると、何人かのクラスメイトの男子が『それいけ!』というようにボブにジェスチャーを送っている。

 これはからかいで決定である。ポーラはそっとため息を吐いた。


「ボブ、あんたが何を考えてるのか大体分かったから……」

「あ、分かってくれた?」


 嬉しい、というようにボブは破顔した。でもそんなのには騙されない。ボブは馬鹿なのだろうか。


「だからいらない」

「何で!?」


 何でじゃないよ、とポーラは心の中でつぶやく。どこの世界にわざわざびっくり箱で脅かされたい人がいるのだろうか。


 どうせ変な幻影でも見せられるのだろう。それか何かが飛び出してきて顔にぶつかってくるのかもしれない。そんなのはごめんだ。


「ポーラはきっと喜ぶと思うんだ」


 ボブはまだそんな事を言ってくる。そこまで開けさせたいらしい。


「分かった。変なものだったらただじゃおかないから」


 とりあえずそう釘を刺しておく。


「あなたたちもね」


 ついでに物かげの男子にも声をかけておく。その中の一人から『え!?』という声が漏れた。


「何? やっぱり危ないものなの?」


 声を出した男子に低い声で話しかける。俯いたのは肯定だという事だ。


「これ、何が出てくるの?」


 脅かしたいのだろうが、あえてそう尋ねる。野次馬で仕掛け人であろう男子が全員そっぽを向いた。

 それに対してボブは動じない。ある意味あっぱれだ。


 その度胸に免じて開けてあげてもいいかな、とポーラは少し思った。


「私が気絶するものじゃないよね?」

「そんなものじゃないよ!」

「……いやー、どうだろう」

「女は度胸だ。頑張れ!」


 なんだか意見が分かれた。しかも意味の分からない声援まで飛んで来た。


 とにかく開けなければ何も分からない。


 ポーラは思い切ってびっくり箱を開けてみた。


 途端にパーンとすごい音がして中から何か出てくる。それを見てポーラは目をパチクリさせてしまった。


「……セルピーネ?」


 そしてそう呟く。


 中から出てきたのはセルピーネという頭が沢山ある蛇の人形だった。それもとてもリアルな作りだ。遠目から見たら本物だと思ってしまうかもしれない。

 どうやら大きな人形を箱の中に入るように縮小化して幻影エフェクトと一緒に飛び出すようにしたらしい。

 単純だが、よく出来ていると思う。


「でもなんでセルピーネ?」


 ついそう問いかけてしまった。他の男子もその疑問はあるようでボブの返答を待っているように見える。


「だってポーラ、セルピーネ好きでしょう?」


 どうやらボブは図書館でポーラが動物図鑑のセルピーネのページを真剣に見てるのを見てそう思ったらしい。


「まあ、面白い造形ではあるよね」


 びっくり箱の中のセルピーネを見ながらそう呟く。そうだろう、というようにポールは頷いている。嫌がらなかったから喜んでいるのだろう。単純としか言いようがない。


 プレゼントなら、無難に猫や犬やウサギにでもすればいいのに、とも思う。

 それでも、なんとなく自分の事を考えて、そして喜ぶだろうと考えてこれを選んだのなら悪い気はしない。


 一度箱の蓋を閉じ、また開ける。そうしてまた派手に出てきたセルピーネの姿にポーラはつい笑ってしまったのだった。

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