19.再始動


バルファルの街でも一際大きく目立つ建造物……


 大きな舞台ステージがあり、赤い垂れ幕がかかっている。

 その舞台ステージを見るために配置された観客席。

 吹き抜け構造であり、舞台ステージを見るための観客席は2階や3階にも設置されていた。


 天井にある、光の魔石を加工して造られたデカいシャンデリアが建物内を照らし、壁画が飾られ、豪勢な造りだ。


 そして、観客席にはびっしりと人が埋まっており、中には貴族だと思われる貴婦人や紳士も座っている。


 その中で、、


「レディース&ジェントルメンっ!!ようこそっ!バルファル歌劇場へっ!」


 という声が館内に響き渡り、、


「皆さまとの出会いも再開も、わたくしとこのバルファル歌劇場、心待ちにしておりました!」


 それを喋るのは、礼服を着て目を仮面で隠した司会者らしき男だ。


「さて、今宵、このバルファル歌劇場に招待させていただきましたのは、最近大道芸通りで話題の尽きなかったこの男っ!!」


 司会の男が舞台ステージに手を差すと、舞台ステージにスポットライトが当たった。

 そのスポットライトの中にいたのは、羽が飾られた赤い中折れハットを被り、黒い紐ネクタイに、白と赤の礼服で身を包んだ少年だ。

 顔は白塗りになり、涙がペイントされたピエロメイクが施されている。


 その少年は、観客に向け、手を回した後、腹にその手をつけてお辞儀した。


 その少年の名は……


「紳士淑女の皆さん、どうもこんにちは。道化師レントでございます。」


 レントはそう言って笑顔を見せる。


「いつもは踊りやら、歌やら、劇をしたり、あと楽器吹いたり、そんなことをしてるこの劇場だが……」


 レントは人差し指を立て、、


「今回私が皆様方に見せるのは、一風変わったショー、マジックショーですっ!」


 

 

 そういうと、レントは懐から取り出した棒を宙に投げ上げだ。

 すると棒からいくつもの花の花弁が飛び出し、舞台上を舞う。


 その瞬間、歌劇場が用意した楽団が一気に音楽を奏で始めた。

 壮大で、愉快で、綺麗な音色………

 そんな音色が響き渡り、花弁が舞い散る中で再びレントはお辞儀。


 そして懐から取り出した赤、緑、青、白の魔石を辺りに満面なく投げ上げ、炎、風、水、光、が魔石から飛び出し、カオスを生み出した。


「うっうおおっ何やってるんだっ!」

「水が飛んでくるぞっ!」

「炎もだっ!」


 そのカオスが観客達にまで降りかかりそうになり、一部の観客達がパニックになるが、、


「大丈夫ですよっ!」


 レントが笑み浮かべ人差し指を口につけながら言った途端、炎も風も水も光も、魔石に吸い込まれるように戻っていく。


「何が起きたんだ……。」

「わっわからないわ?」


 観客達は、何が起こったのかわかっていない様子……しかし、それを楽しむ観客達。

 それがレントのショーなのだ。

 レントは身体を大きく動かし、小道具を出しながら、音楽に合わせ踊りながらマジックを披露する。


 当初はただマジックをするだけだったが、この一年で愉快に踊りながらマジックを披露するという技術を身につけた。


 実に道化師らしく振る舞い、、

 

 レントの礼服の至る所にたくさんの小道具が仕込まれ、どこからともなくトランプを出したり、次々と仕込んだ小道具を使って、『不思議』を観客達に提供する。


 歌劇場の舞台ステージは、レントの愉快に支配され、シャボン玉や、花弁、淡い光やらが舞い散って、、


 最初はパニックとなっていた観客達も、いつのまにか魅入って見ていた。


「さぁ、今度はっ!このデカい木箱が登場ですっ!」


 レントはそう言って、懐から人が入れるくらいの扉付き木箱を取り出し、舞台上のど真ん中に置く。


「えっ、あんなデカいのどうやって出したんだ!?」

「なにあれっ!!」

「いきなり現れたぞっ」


 実際は、舞台裏に用意していた扉付き木箱を、時間停止中に持ってきただけなのだが、それをあたかも懐から出したように演出する。


 この一年で身につけたのは、踊りだけではない。ただ時間操作でマジックをするだけでなく、人にそう『見せる』マジックそのものの技術も身につけていた。


「ではではっ、この木箱の中にあるのは……」


 レントがそう言って木箱の扉を開くと、時計が描かれた人を包み込めるくらいの大きさの旗が収納されている。


「旗です!」


 その旗を取り出し、何重にも折りたたむと木箱の扉を閉めた。


「ではっ!スタンバイっ」


 レントがそう言って指をパチンと鳴らすと、天井から吊るされた木の板、いわゆる空中ブランコが出てきて……


「なっ何やるつもりだ……?」

「きっとあれに乗るのよ。」


 観客達はごくりと喉を鳴らし、舞台ステージの様子を見やる。


「皆さんお察しの通りあれに乗りまーす!」


 レントはそう言って、懐からありったけの風の魔石を取り出すと、地面に置き、一気に強い風を発生させた。


 強い風は上へ一直線……上昇気流のようになり、レントがその上で持っていた旗を上に広げると、上昇気流に押された旗がレントを持ち上げそのまま空に飛び上がる。


「すっすごいっ!!」

「いいぞっ!!」


 観客達もその様子に大興奮だ。


 空に飛び上がったレントは、空中ブランコを掴み、そのまま座る……なんて芸当は流石にできないので、一瞬時間を止めて、空中ブランコに座った。

 まるで、そのまま飛び乗ったかのように自然に見せているので、レントの不正を疑う者など誰一人いない。

 

「「「「うおぉっ!!」」」」


 一点の疑いもなく、観客達は歓声を上げ拍手を送った。


「拍手をありがとうっ!!じゃあこっからクライマックスねっ!」


 レントが風の魔石で風を起こし、その風は空中ブランコを大きく揺らす。


 大きく揺れる空中ブランコに座るレントはマジックで使っていたトランプを会場全体にばら撒き、、


「それ、拾った人に差し上げまーす!!」


 すると、観客達はレントがばら撒いたトランプを我先にと拾う。


 観客達が一通りトランプを拾い上げたのを確認すると、、


「じゃあ正真正銘のクライマックス……。」


 レントは空中ブランコの上で立ち上がり、飛び降りた。


「きゃぁぁっ!!」

「何やってんだっ!?」

「いやっ!!」


 落下していくレントに、観客達は絶叫し、目を手で塞ぐ者までいる。


 レントは笑みを浮かべると、落下途中、持っていた旗で身体を包み込んだ。


 そのまま、旗は舞台ステージにボフンと音を立てて落下するが、、


「あれ、道化師は……」

「いない……?」


 落ちたのは、旗だけでありレントはその中にいない。


 観客達が揃って首を傾げていた、その瞬間、、


 舞台ステージのど真ん中に置かれた扉付き木箱の扉が一気に開かれた。


「「「「「ーーっ!!」」」」」


 その木箱の扉を開いたのは、紛れもなく、、


「以上、クライマックスでございましたっ。」


 礼儀よくお辞儀をするレントである。


「「「「「「うおおおおおッ!!」」」」」」


 その瞬間、歌劇場内をとてつもなくデカい歓声が響き渡った。

 歓声に、拍手大喝采。

 歌劇場のどこか堅い雰囲気には、似合わない熱気が歌劇場内を包み込む。


「どうもどうも。では、紳士淑女の皆様っ!今宵はどうもありがとうっ!」




 ――――――――――――


「いやぁ〜、レントさんすごかったですねっ!」


「いやいやいやぁ、それほどでもぉあったりしてぇ〜?」


 舞台が終わり、管理室でレントと歌劇場管理人が話していた。

 絶好調な公演ですっかり、鼻が伸びきっているレントは、完全に調子に乗っている顔で管理人の肩をポンと叩く。


「いやほんとすごかったですよっ!噂以上のものを見れましたっ!」


「どうもどうもっ!でもそんなおだててもなんも出てきませんよぉ〜。」


 ベタ褒めする管理人に、レントはもう満面の笑みだ。

 もはや、何かを求めているのじゃないかというほどの褒めっぷりである。もっとも、レントからは何も出すことはできないが、、


「いえいえ、何も求めていませんよっ!それどころか……」


「おっ、きちゃいますかぁ?これ。」


 レントが指を丸め、お金のジェスチャーを取ると、管理人は頷いた。


「ええ。今回の出演料……120万デウスです。」


「120万!?」


 笑みを浮かべ、皮の箱型バックを渡す管理人に、レントは絶叫する。


「うちの歌劇場は、バルファルの街一の歌劇場ですよ。ここだけの話、金払いの良い貴族の方などのお得意様もいるので……これくらいの出演料はお支払いできます。」


「へっへぇ〜、それは……いいんすか。本当に?」


「いいんですよ。」


 レントは悪代官顔負けの悪い笑みで、そのバックを受け取った。


「それでなんですが……よかったら、またうちで公演をしていただけませんか?」


「あぁ……。なるほど。いいですよ。」


 管理人の真意に気づき、レントはそれでも顔を縦に振る。


 今回のレントの公演で、ますます噂は広がり、レントの公演を望む者が多くなり、次にレントの公演が開かれれば今回以上の利益が生まれるだろう。


 《んで、俺に大金掴ませて、逃がさないようにしてるわけだ。やり手だな。》


 しかし、レントも大金を掴んで損はない。


 見送る管理人に、レントは親指を立て片目を閉じながら、歌劇場を後にした。



 ――――――――――――――


 

 ーー同時刻、街中にて、、


 肩にかかるくらいの紫紺の髪に紫紺の眼、白い肌……その姿は言い表せば美少年か美少女か、が歩いていた。

 中性的な見た目であり、性別の見た目が判別しにくいが、振る舞いからは少年のように見える。

 その美少年の名は………


「リーブ様ぁ〜!」と、顔を赤らめた街の女性達が美少年……リーブに声をかけた。


 リーブの格好は、一年前のぼろぼろの服から一変、綺麗な白シャツに身を包み、大きなポケットがついた黒くデカいズボンを履いて、腰には紫のローブを巻いている。


「さすがリーブというべきか……。」

「またアイツか……。」


 リーブは、街からいろんな注目を浴びていた。

 その原因は……


「やっぱ、これじゃ目立ちすぎちまうな。でも素材の剥ぎ取りできねぇからな。」


 注目され、頬から汗を滲ませながら歩くリーブによって大きな二本のツノを持つ牛のような見た目の恐ろしい魔物の骸が縄で引きずられている。


「あぁ、重い。魔物商会までまだ結構かかるっつうのに。」


 そう愚痴をこぼしながら、リーブは魔物を引きずり、人の注目を集め、魔物商会を目指して歩いていった。



「はぁはぁ、やっとついた。」


 リーブは目の前にある魔物商会の扉を開き、魔物を引きずって中に入っていくと、中にいた同業者の者達がざわつく。


「またリーブがやりやがったかっ!」

「さすが、期待のルーキーだからな」


 杖を持った魔法使いに、剣を持った剣士に、盾を持った戦士、拳で戦う格闘家、いろいろな魔物狩りがいるが、リーブは一体何に区別されるのだろうか?


 とりあえず、剣で戦わないので剣士ではない。

 戦士でもなく、、


「俺は……魔法使いなのか……?いや、拳で戦うし、格闘家……?」


 そんなたわいない考え事をしながら、魔物を引きずり受付へ向かうと、


「リーブさん、魔物の査定ですねっ!」


 若い女が受付を対応した。


「あぁ。よろしく頼むぜ。」


 リーブが頬を緩ませ、魔物の骸を差し出すと受付の女は、赤らめた顔でリーブを見つめる。


「あの、査定を……」


「はっ!はいっ!すみません!!」


 焦ったように魔物を台車に置き、裏へ運んでいく受付の女に、リーブは苦笑いだ。


「最近ずっとこれだ……。」


 ここ最近、みすぼらしい見た目から一変したからなのか、会う人々から向けられる視線に性的なものを感じる。

 男女関係なく、そうゆう目で向けられ、リーブの最近の悩みだ。


 以前、それをレントに相談したら、「へぇいいじゃん。」と鼻をほじりながら、適当に返された。


「何が……いいじゃん、だよ。」


 思い出しただけで、少しイラッとくる。

 イライラで眉間にシワを寄せながら、査定終了まで椅子に座り待機していると、、


「リーブさん、査定が終了しましたよ。」


 査定が終わったようで、先刻の女がリーブを呼んだ。


「査定結果、リーブさんがお持ちになった魔物は、鋭豪牛ですね。熟練の魔物狩りでもなかなか倒せない危険な魔物なのですが……さすがリーブさんですねっ!」


 相変わらず顔を赤らめた受付の女は、リーブをべた褒めする。

 リーブが持ってきた魔物は、そこそこ強かったらしい。


「あっ……あぁそりゃどうも。で、いくらで売れる?」


 そんな女の様子に苦笑いで対応するが、問題はその値段だ。


「引きずり跡があって革は状態が芳しくありませんでしたが、ツノはとても上質なものでしたっ!鋭豪牛自体が、高値で取引される魔物なので……28万デウスと換金できます!」


「28万か……。じゃ、換金してくれ。」


 その額を聞いても、リーブはレントと違い感情をあまり表には出さず、冷静に換金を要請したが、内心ではとても興奮していた。


「どうぞっ!」


 出された硬貨を、受け取り布袋にしまうと、リーブは魔物商会を後にする。



 ――――――――



 その美しい外見と、外見からは想像できない強さで、注目を集める期待の魔物狩り……リーブ。


 その不思議なマジックと、愉快な踊りで人々を楽しませる、噂の道化師……レント。


 形は違えど、街を騒がせる二人はスラムという街で同棲していた。


「あ、リーブ。」


「レント、お前歌劇場に呼ばれたんじゃねぇの?」


「あぁ終わった。」


 夕暮れ時、帰ってきたレントが中に入るために扉を開けようとすると、偶然リーブも帰りで、家の真ん前で鉢合わせ、二人で家の中に入った。


 この一年で家の中は見違えるほど変わっている。


 外装はほとんど変わってないが、内装はレントとリーブの稼ぎからいろいろ買い足され豪華なものになっていったのだ。


 帰ってきて速攻レントは、新たに買い足されたふかふかな2人用ソファに寝転んだ。


「いきなりかレント。まずその顔のメイク落とせよ。」


「えぇ〜、めんどくさぁい。」


「めんどくさいじゃねぇーっ!ほら、白いのソファについてんじゃねぇか!!」


 歌劇場からそのまま直帰したため、着替えずメイクも落とさず、そのままである。

 顔に塗ってある白い粉がポロポロソファに落ちて、リーブはお怒りだ。


「おいリーブ、最近お前いちいちうるさい。」


「はぁ?なんでだよ。」


 ソファからリーブをジト目で見て指を差す。


「食ったらもの片付けろだとか、風呂入ったら髪ちゃんと乾かせだとか、小言が最近多いんだよお前。」


「全部当たり前のことじゃねぇーかっ!」


 リーブは怒っているが、レントは気にせずソファでダラダラ動かない。


「おい、あと二秒以内に動け。」


「やだ。」


「よしわかった。」


 どうやっても動こうとしないレントに、リーブは近づくと、


「ーーいてっ!」


 レントの脳天にゲンコツを食らわし、ソファから無理やり引き離した。


「いってぇ、はいすぐ暴力振るうっ!」


「はっ、言ってもわかんねーやつは、こうしないとわかんねぇだろ?」


 強烈なゲンコツを食らい涙目でうずくまるレントを、リーブは容赦無く浴槽まで引きずる。


「ほら、顔洗え。あとその服も高いんだから、ちゃんとシワつかないように保管しとけよ。」


「お前は俺の母親かっ!」


 元いた世界のレントの母親は、なかなかに小うるさく、父親をも困らせていたが、リーブの最近の子うるささは、それに匹敵するほどだ。

 加えて、普通に鉄拳制裁もあるので余計タチが悪い。


 レントはメイクを洗い流すついでに、風呂に入り、いつもの服へ着替える。


 一年で少し髪が伸び、生まれつきだった癖毛が目立つ。

 欧米風のうねりのある癖毛であり、いろいろ整えるのが面倒くさいため、短髪にしていたが、、


「この髪型なら楽なんだよなぁ」


 うねる癖毛を利用し、センター分けにするのが最近のレントの髪型だ。


「にしても、この髪マジで……まぁ母さんがオーストラリアと日本のハーフだから仕方ないんだろうけど……。」


 髪を整え終わると、ようやくレントはさっぱり気分でソファへ座った。


「ねぇリーブ、飯作ってぇ。」


「はぁ、お前、どんだけ怠けんだよ。」

 

 座って早々に人任せ宣言のレントに、リーブはため息を吐きながら、仕方なく料理を始める。


「いやぁ悪いね。」


「お前、初めて会った時よりなんかだらしなくなってねぇか?」


「まぁ、あの時はいろいろあったからな。生きることに必死だった。でも今はほら、金もたんまりあるし、信頼できる友達だっている。」


「レント……。」


 一年前、この異世界に来て、この街に来て、当初は生きていくことだけで精一杯だったため、怠ける余裕なんてなかった。

 しかし、今は住む家もあり、信頼できる友達もいて、金も目標金額である1800億デウスにはまだ遠いが着々と近づいてはいる。


 そのため、、


「だから俺は怠ける。元々俺はそうゆう性格なの。」


「一瞬、嬉しく思った俺がバカだった。」


 数十分が経過し、料理を作り終えたリーブは、できたシチューを皿に盛り、買い足した大きな机に置いた。


「おおっ!うまそうっ!いただきますっ!」


「レント、ずっと気になってたんだけど、そのいただきますってなに?」


「あぁ、これ俺の故郷でのマナー。守らなきゃ嫌われるぜ。」


「嘘だろ……。」

 

 実際マナーではあるが、嫌われるかどうかは人次第だ。レントは根も葉もないことを言って、リーブのドン引きする様を楽しんでいる。


「まっまぁ、そうゆうことなら、いただきます。」


「へっ、別にここ日本じゃねぇからいいだろ。」


「いいんだよ。俺の勝手だ。」


 レントを真似て手を合わせ同じように、いただきますというリーブ。


「うまっうまっ、、」

 

 リーブの作ったシチューは美味しく、パンと合わせて食べると、それはもう美味い。


 すぐにシチューを食べ終わり、レントは満腹になると、再びソファに寝そべった。


「たくっ、レント、これ……。」


「なにそれ……ってケーキじゃん!」


 食器を片付け、綺麗になった机にリーブが置いたのは豪華にクリームやいちごが乗ったケーキ。


「しかもこれ、並ばないと手に入らない店のやつじゃん。どうしてこんなの……。」


 レントの知っている知識では、今目の前に置かれているケーキは専用の店でしか売っていない、手に入れるのに苦労する代物だ。


「ほら、その……。今日、俺達が一緒に住み始めてから、ちょうど一年だろ?だからその記念に……。」


「おいやめろよぉっ野郎同士でっ!なに結婚一年目の夫婦みたいなこと言ってんだよ!」


「ふっ夫婦じゃねぇしっ!!調子に乗んなよレントっ!」


「突っ込むとこそこかいっ!」


 リーブは夫婦という言葉で、自分のやっていることの意味を理解し、一気に顔を赤く染め上げる。


「いらねぇなら食うなっ!全部俺が食べるっ!」


「いや、それはダメ。俺も食うっ!!」


「おいコラっ!」


 リーブがケーキを取り上げようとすると、レントは切り分けずにそのままケーキに食いつき、そんなレントをリーブはケーキから引き剥がす。


 今日も今日とて、レントとリーブの家庭は騒がしい。


 



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時操の道化師は異世界を席巻する 渦川間 ヤトナ @ytnkg

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