手の目(4)

 カジノは盛況だった。小綺麗なドレスで着飾ったおっさんにおばさん、おじさんに連れられたケバいねーちゃんと、客層は案の定って感じ。


 僕みたいな若いのは当然珍しいが、外に見張りがいるタイプの店は「入店できているなら、見張りが許可したんだろう」というバイアスがかかるので、むしろ中の方が安全だったりする。


 客をかき分け、バニーから酒を受け取りつつ、そのまま奥のバーカウンターへ。席に腰掛け、室内を見渡した。


 一際人が集まっているのは、やはりルーレットか。やけに盛り上がっているところを見るに、勝負所なのだろう。群衆が固唾を飲んでいるのが見てとれる。


 タレコミが正しければ、もう間もなく、あそこから素寒貧が放り出されてくるはず。


 一気に歓声が高まった。


 が、それは尻切れ蜻蛉に消失し、戸惑いと憐憫が一体に漂う。


 それは、獣の呻きのようだった。ルーレットに座っていた男が突然立ち上がり、声にならない声を上げながらのたうち回っている。


 あたりは一瞬騒然としたが、間もなく群衆は散り、あとには正気を失った男が取り残された。彼の元に黒服が集まる。一世一代の勝負に負けた彼はどこかに連れていかれるのだろうし、この店では日常茶飯事の出来事。


 彼に一瞥をくれる他の客も、またか、といったふうに呆れ顔である。


 ただ1人、ディーラーだけが下卑た笑みを浮かべている。

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情緒超不安定蝶々 日笠しょう @higasa_akira

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