Dragon Force
めんとすがいざー
第1話 龍精
「この子の事、お願いします」
そう言って、女は自分の腹を撫でた。
全身くまなく傷があり、手指まで明後日の方角を向いている。生きているのも奇跡的と思えるほどで、もう長くはないだろう。
女の体に影が掛かった。
「承知した。・・・しかし思うに、無事生まれたとして凡そ普通の生活を送る事は難しかろう。情けない話ではあるが、尽力はするとも。残す言葉は、あるか」
淡々と投げられる声に、女は口元を少し緩めて言った。
「思うままに生きなさい、と」
必ず伝えよう。その言葉を聞き終わる前に女は目を閉じた。浅くとも、確かに上下していた胸がゆっくりと沈んでゆく。
「逝ったか。人の身でありながら、よくも見事戦ったものよ。」
女の亡骸に、ゆっくりと手が伸びた。
「大恩もある」
あらわになった腹と、そこを守るように覆った手のひらをすり抜けて、きらきらと光をこぼす珠が上ってきた。
人の握り拳よりも小さな珠。それは鱗に覆われた四つ指の中に納まると、なおも輝きを増し、光の粒を振り撒いた。
「砂金のようではないか」
大きな大きな手に守られて、珠は運ばれていく。
やがてやってきた岩屋戸の奥、こんこんと水の湧く水盆に珠はするりと滑り込まされた。水の中にあってなお輝きは衰えず、暗い洞窟をほんのりと照らしている。
「では、お前が世に出づるまで、我が威によって守り育もう」
この場に至る下り坂と鳥居を通して、空が覗ける。
先ほどまで荒れ狂っていた風と、分厚い黒雲が嘘のように千々に裂け、隙間から日の光が差し込んでいた。
Dragon Force めんとすがいざー @toxick
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