小さな世界しか知らなかった王子が、後宮を出て広い世界に触れ成長していく物語を丁寧に描ききっています。
魔法や星にまつわる伝承などの世界観と合わせて、まるで大判ハードカバーのジュニア向け海外ファンタジー文学といった雰囲気です。
主人公である第三王子は、王族ならではの尊大な口調ではあるものの、本来は素直で謙虚で努力家であるようです。未熟さを自覚してからは行いを改め、長兄への敬愛のために頑張ったり、ときにはちょっと見栄を張ったりといった振る舞いが等身大で応援したくなります。
周りの大人たちの彼を見る目も暖かく、暗い展開の中ではほっとさせられます。
物語の軸の一つであるヒロインとの愛情が、文通で奥ゆかしくも着実に育まれていくのも見どころです。
主人公が使いこなす風魔法の不思議さ、近しい人々にふりかかる呪いの不気味さなどの超自然的な要素や、王都や旅路の風景、星が輝く夜の海の幻想的で美しい情景など、いずれも飽きさせず立体感のある描写が散りばめられており、読み進むうちにすっかり引き込まれていくことでしょう。
王子は、借金をして贅沢を尽くしてきた国王とその側妃の息子として、これまで外の世界を知らずに傲慢に振る舞ってきました。しかし、国の窮状を知るにつれ、徐々に自分自身を見つめ直していく過程が、リアリティを持って描かれています。
侍女のアリーセや侍従長のドロテアとの交流を通じて、王子が初めて自分より下の立場の人々に目を向け、思いやりの心を持つようになっていく様子は、共感を呼ぶでしょう。
一方で、現実を受け入れられない王子の母親の姿は、王子の内面の葛藤をより際立たせる存在として効果的に描写されています。
また、王子と可愛らしい妹姫たちとの温かな関係性は、物語に心温まるひと時をもたらしています。
ヴィンフリート王子がこの困難な状況にどのように立ち向かっていくのか、今後の展開に期待が高まります。
借金王国を舞台に繰り広げられる、若き王子の成長物語です。