大人の男として

 ライリーさんに頼み、コンビニで買い物をしてもらい、久しぶりに部屋で酒を飲んだ。


 厚かましいお願いだったが、土下座をすることで、頼みを聞いてもらえた。オレが行くわけにはいかず、ライリーさんに頼むしかなかったのだ。

 信用なんてされていないし、脱走されても困るだろうから、オレを館から出す気はないのだろう。


 記憶を頼りにチャットでIDを検索し、ジョンくんにメッセージを送る。


 コンコン。


 文字を打ち込んでいると、部屋のドアがノックされた。


「はい」


 スマホの画面を消して、イヤホンを耳から外す。

 枕の下に隠してから、オレは部屋のドアに近寄った。


「パパっ」

「……お嬢様」

「名前でいいわ」


 にんまりと笑ったリヴァが、部屋の中に入ってくる。

 部屋に入れると、リヴァは小走りでベッドに飛び乗る。


「ライリーさんに怒られるんじゃ?」

「だから、こっそり……ね?」


 ベッドに座ったリヴァは、隣を叩く。

 オレは大人しく隣に座った。

 爽やかで、フルーツの香りが隣から漂ってくる。

 窓からは明かりが入ってこないため、天井の小さな明かりだけが、闇を透かしていた。


「さっきはゴメンね」


 腕を絡め、頭を預けてくる。


「でも、パパが悪いの。わたくしの言う事をちっとも聞いてくれないから」

「……そっか」

「でも、誓約書に血判させたから、もう辞めれないよね。本当はアキレス切ろうと思ったけど。……それは最後の手段にしておく」


 太ももを撫でられ、オレは咄嗟に手首を握った。

 リヴァがクスリと笑い、力づくで股の間に手を這わせてくる。


「ねえ。パパ。昨日は、ライリーに邪魔されたけど。今日は大丈夫」


 ライリーさんに張り倒され、通報されたのだ。


「大丈夫って?」

「ライリーがいつも飲んでるプロテインジュースに、睡眠薬入れちゃった。えへへ」


 悪戯っ子みたいにリヴァが笑った。

 あどけない表情を見ると、本当に別人みたいだった。


「パパになら、……何でもしてあげる」


 作業着のチャックを腹の下にまで下ろすと、リヴァは中に手を入れてきた。下着越しに手の平と指の感触が伝わってくる。


 器用に指先を動かし、普段は見せない愛情を指だけで表していた。

 同時に、オレは思うのだ。


 ――こいつは……危険だ……。


 自分の欲のためなら、手段を択ばない。

 どんなに惨たらしい真似をしても、必ず叶えるだろう。

 誓約書に意味があるのか、と聞かれたら、たぶんないはずだ。

 なのに、誓約書に血判を押させたのは、自分のだ。


 次に裏切れば、四肢を切られるかもしれない。


「あ、そうだ」


 リヴァがパジャマのポケットから何かを取り出した。

 端っこを掴み、それを渡してくる。


「……これ。ゴム」

「リヴァ……」


 四角い封に入った、青色のゴム輪。

 性行為の時に使う避妊具だった。

 照れくさそうに床を見つめ、オレの股間の上に置く。


 それから、もう一度腕を絡め、リヴァはオレの手を取った。


「もう、……準備できてるから……」


 今度は、自分のズボンの中にオレの手を誘導した。

 中はしっとりと湿っていて、リヴァが女として求めている事を伝えてくる。


「これからは、……ずっと一緒」

「こんな事、いけないよ」

「パパ。口答えしないで」

「リヴァ」


 そうなんだよな。

 リヴァもまた、大事なことを親から教えてもらっていないのだ。

 本人たちは教育をしてるつもりだろう。

 オレが否定すれば、顔を真っ赤にして怒るはずだ。


 では、今のリヴァがどうして禁断の一線を超えようとするのか。

 彼女の稚拙な欲望が暴走しているのだって原因だ。

 一方で、親から口を酸っぱくして、性について学んでいないからだ。


 子供の頃から、性については学ばないといけない。

 中学にもなれば、自我が芽生えて、もう遅い。

 学習より欲望が勝る。

 これが分かってる親は、どれだけ下手くそでも早くから学ばせる。


 オレはリヴァの中から手を取り出した。


「……パパ?」

「まだ早い」

「ええっ!?」


 ゴムを床に放り投げると、リヴァが口を尖らせる。


「部屋に戻るんだ」

「嫌よ。命令しないで」


 考えたオレは、「だったら」と妥協した。

 リヴァをお姫様抱っこして、ベッドに寝かせる。


「一緒に寝るだけならいい」

「……えぇ」

「風呂に入ってないから、臭いけどな」


 隣に寝ると、リヴァは構わずに近寄ってきた。

 オレの腕を取り、枕にして見つめてくる。


「……ほんとだ。くさい」

「離れてもいいぞ」

「ふふっ。やだ」


 リヴァが足を絡ませ、脇に頭を乗せてきた。

 下手な真似をさせないよう、オレは向き合って眠る。

 体臭がきつかったら、勝手に離れるだろう。

 腰に腕を回し、リヴァが動きにくいようにして抱きしめる。


 リヴァは汗臭い胸元に顔を埋め、背中に腕を回してきた。

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