オッサンの生き様

本当の覚悟

 留置所を出たところで、待っていたのはライリーさんだった。

 何も言わずに後部座席のドアを開き、顎で「乗れ」と命令してくる。


 彼女の姿を見た時、オレは察した。

 オレを釈放したのは、お嬢様だ。

 着ていた服や所持品も返され、車にはライリーさんと二人きり。


 警察署の敷地から出たら、何度も見かけた田舎の道路が広がっていた。

 警察署の近くにあるパチンコ店を通り過ぎた辺りで、ライリーさんが口を開いた。


「お嬢様に感謝しろよ」


 棘のあるセリフだった。

 オレは聞いているようで、聞いていない。


 本当だったら、気まずくて仕方ない。

 でも、妙に心が落ち着いていた。


 タマオのおかげで、一つ分かったことがある。


 何か悪い事をしてしまった時、、心が苦しくなる。だからといって、

 許されようと思わない事だ。

 つまり、素直にやったことを

 たったの、心は落ち着いた。


 執着する心が、苦しみを生んでいる事に気づいたのだ。


 次に考えるのは、オレがやりたいことだ。

 オレは――異世界転生物とか、大嫌いだ。

 ああいうのじゃない。

 本当に、一から十まで、全部がファンタジーの世界が良い。

 あれが好きだ。


 自分の好きなものを好きと自分の中でハッキリさせる。

 逆に、自分が嫌いなものは、周りの反応なんて初めから関係ないのだから、気にせずに嫌いだという。


 口には出さないけどね。


 ようは、何でもいいから自分に素直になる事を移動中に始めていた。


 遠慮してるつもりなんてなかったのに。

 オレはいつの間にか、自分を騙して、自分に嘘を吐きまくっていた。

 自分と向き合ってみると、驚くほどに思い知らされた。


「聞いてるのかよ」

「……ああ」

「女子高生に手を出したんだ。せいぜい、反省しろ」

「……ああ」


 無視した。

 反省なんてしていない。

 オレが選んで、やったことだ。

 思えば、あの時に社会的な死を覚悟していたのだ。


 良い事ではないが、反省はしていない。


 オレはずっと考え続ける。


 オレは――年上が好きなんだ。

 筋肉質で、一人称が「あたい」とかいう、姉御肌の女が好きだ。

 元々、リーダーになりたいとかはなく、従者になりたいタイプだ。

 アマゾネスが良い。

 尽くすのが好きだ。


「…………」


 尽くす、……か。

 現実で尽くすなら、誰に尽くそうか。

 この狂った世界で、オレが尽くしたい相手。


 言葉にする前に、オレの頭には所長や町内会のみんなが浮かんでいた。

 もう飲めないって言ってるのに、何度も飲ませやがった会長とか。

 孫さんは可愛らしくて、オレが見ると、すぐに戸の陰に隠れたりしていた。


 日本なんて、もうどこにもないけど。

 オレは――生きてる。

 オレは――同じ日本の人間が、死ぬほど好きだ。

 その上で、ジョンくんや他の外国籍で、良い人達を好きだ。


「……妙な事を考えるなよ」

「そう見えますか?」


 ルームミラーに映っているライリーさんの顔を見つめた。

 彼女は、オレに鋭い目つきを向ける。

 武力行使では敵わない。

 簡単に殺されるだろう。


 オレ――日本の人間なんて、迫害されまくってるゴブリンと同じだ。

 正義は相手にあり、オレは悪。


 バカバカしい。

 何で、お前らが正義だという前提で、何もかも進んでいるんだ。

 白人だけじゃない。

 中国だろうが、半島の人間だろうが。

 中東だろうが。ロシアだの、アフリカだの。


 全部、バカバカしいんだよ。


 お前ら、だろうが。


「ふん」

「……あぁ?」

「いや、何でも……」


 ――死ぬか。

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