汚い薩英戦争

壮絶な光景

 ピチョ……ピチョ……。


 目が覚めると、オレを真っ先に向かえたのは、冷たいコンクリートの床だった。ひんやりとした感触でお腹が冷え、寝返りを打とうと手足を動かすが、身動きができなかった。


「う……あぁ……ここは……」


 どこの地下室だ。

 周りはコンクリートの壁。

 天井には照明があり、無機質な空間を照らしている。

 室内は、6畳半ほどの広さ。


 周りに目を配っていると、見覚えのある姿を発見する。


「お目覚め?」

「……お、お前……」


 リヴァだ。

 パイプ椅子に座り、微笑を浮かべていた。


 傍にはライリーさんが立っていた。

 手には黒いグローブをはめていて、いつもの私服とは違い、黒い軍服を着ていた。


「くそ。頭がいてぇ」

「あらら。大変」


 何がどうなってる。

 確か、コンビニに煙草を買いに行って、事務所に戻ろうとしたら、路肩に黒いワゴン車が停まって――。


 ――黒人の兄ちゃんが――首を絞めてきた。


 おぼろげな意識の中で、車の天井が視界に映っていた。

 そこで意識は途切れ、今オレは床に寝ている。


「……マジかよ。こんな事って、本当にあるのか。って、……おいおい」


 顎を下げて、自分の体を見れば、あろうことか全裸。

 どうりで寒いわけだ。

 手足は何かで縛られているらしく、細い紐のようなものが手首に食い込んでいた。


「下僕ぅ。……くすくす。奴隷が主人に逆らったら、お仕置きするのは当たり前よね」


 リヴァお嬢様は、床に転がしていた何かを手に取った。

 見れば、それは乗馬ムチだった。


 素振りをしてみせると、鋭い音が鳴り、微妙に風が送られてくる。

 よく見れば、お嬢様の恰好まで普段着とは異なっていた。

 足はヒールの靴を履き、体の上下は白のトレーニングウェア。

 ピッチリとフィットするタイプの衣服で、色々と肉体の一部が盛り上がっており、非常に扇情的な恰好となっていた。


「よくも。……豚猿のくせに。ご主人様に――」


 ビュン。


「逆らってくれたわね!」


 ――ピシィンッ。


 ムチの先端がオレの腹を叩いた。

 容赦のない鋭い痛みが、腹から肩にまで振動と共にやってくる。


「ぐあああああ!」

「きゃ、はははは! きったない声」


 ビュン。ビュン。


 連続でムチを振るわれ、腹や尻。

 二の腕を叩かれ、また尻を叩かれた。


「い、でででで! いだい、いだい! 待った。腕は止めてくれ!」

「指図するな!」


 ビュン。――ピシィン。

 尻を叩かれ、オレは腹の底から悲鳴を上げた。


「お前風情に! わたくしが! 泣かされるなんて! ありえないのよ!」


 ピシィン。ピシっ。ピシィン。


 尻を重点的に叩かれ、勢いよく上体を仰け反らせてしまう。

 ムチの痛みは特殊だ。

 肉には全くと言っていいほどダメージがない。

 なのに、皮膚がヒリヒリとして、超痛いのだった。


「っ、はぁ、はぁ。ふふ。無様ね」

「う、ぐ。ぐぐ。どうして、こんな事を……」


 ピシィン。


「んぐああああ!」

「どうしてぇ? 逆らったからに決まってるでしょう!」


 うつ伏せになっていたところを足蹴りで起こされ、お嬢様が力強く踏みつけてくる。


 何というか、汚くて申し訳ないが、金玉に硬い感触があった。

 グッタリとした分身を爪先で踏まれ、痛みと金玉への心配から、冷や汗が流れてくる。


「その気になれば、……あなたの居場所なんて、すぐに分かる。だってぇ、日本の通信は、パパの下僕が持ってるから。……んふふ」

「パパの、……下僕?」

「アメリカに決まってるでしょ。日本はその下よ。自分の立場が分かったかしら?」


 そういや、N〇Tって買収されたんだっけ。

 あぁ、アメリカに買われたのか。

 だから、日本の人間には分からなくても、海外には常時丸見え状態。

 嘘のようで、あっちゃいけない本当の話だ。


「下僕のさらに下僕は、人権なんてないの。あなたは産まれた時点で、すでにわたくしの物。感謝なさい」

「ふぅ、ふぅ。……ふざけるんじゃねえ」

「あ~ら、まだまだ元気ね」


 ピシっ。


「んぐぉ!?」

「わたくしに逆らった報いを受けさせてやる。ライリー」

「あ、はい」

「連れてきなさい」


 ライリーさんはオレを一瞥すると、部屋から出て行ってしまった。

 足音が遠ざかる中、オレはリヴァに聞いた。


「おい。ここはどこなんだ!? 何を企んで――んっほぉ!」


 突然、尻に妙な感触が這い回った。


「んぁ……ぇ~……ぉ♪」


 オレからだとよく見えないが、何やらお嬢様が尻の片方に顔を近づけてるではないか。

 今、尻はムチで打たれて敏感な状態。

 湿った吐息と濡れた感触から、頭には舌が浮かんだ。


「ちょ、やめ、やめなさい! 汚いから! やめなさいって!」

「んむ。……血が……出てたから……」

「令和のヴァンパイアめ! いいから、離れなさい!」


 ぺちっ。


「わたくしが、舐めたいだけ……。ちろ……っ」

「うひっ! やめろって!」


 さすがに、菊門を舐められることはないが、尻たぶの片方だけに柔らかい舌の感触が伝わって、痛みと変な気持ち良さの両方が込み上げてくる。


「っこの!」


 痛みを堪えて、オレは力いっぱい抵抗した。

 勢いで仰向けになると、芋虫のように這い、壁際に逃げる。

 すると、お嬢様は女豹のように、四つん這いで追いかけてきた。


「逃げても無駄よ。助けはこないから。あぁ、そうそう。わたくし、言ったわよね」

「な、何が」

「あなたの前で、……大事な人をって」


 笑えないワードを聞いて、オレはすぐに怒りのスイッチが入りそうになる。


「……なに?」


 入口の方からは、数人の足音が聞こえた。

 金属の音を立てて開かれた扉の向こうには、オレの見知った顔がいた。


「……た……?」


 一瞬、頭が真っ白になった。


「ご、ゴロウちゃ……んがっ!」

「ハヤク、入レ」


 突き飛ばされたタマオが床の上に転がる。

 オレと同じ全裸で、汚い肉体をお披露目していた。

 その後ろには、ワゴン車でオレを拉致った黒人の男がいるではないか。


「ふふん。始めなさい」

「OK」


 身長が180cm以上もある、大柄の黒人。

 筋肉が膨れ上がり、見るからに屈強なスキンヘッドだ。

 なぜか、その黒人まで全裸の姿であり、股の下には馬のように大きな何かがぶらぶらと下がっていた。


 奴は、タマオの尻を打っ叩くと、「year。come on。bitch」と鼻息荒く尻を持ち上げる。


「え? いやいやいや! 無理だって! そんなの、無理だって!」

「year」

「っせえよ! ちょ、ほんと、裂ける! 無理!」


 無様な姿を見て、お嬢様は腹を抱えて笑った。


「キャハハハハ! ねえ。下僕。あなた、目の前で大事な人を強姦されるのって、どんな気持ちぃ? んふふ。泣いてもいいのよ?」


 口角を持ち上げ、邪悪な笑みを浮かべるお嬢様。

 オレは事態を把握しきれておらず、ライリーさんを見た。


「お前が悪い」

「お、オレっすか!?」


 オレと目を合わせた後、目の前で行われているおぞましい光景から目を逸らし、彼女は天井を見上げた。


 タマオは「んがあああああああ!」と悲鳴を上げ、オレに手を伸ばしてくる。


「ご、ゴロウちゃ、助け――」

Huh Huhふーっ、ふーっ!」


 タマオが全身を震わせ、白目を剥く。

 鼻水が飛び出し、大きく開いた口から舌を出し、声にならない悲鳴を上げた。


「ほぇぁ? ほぇ、ぇあああああああッッ!」

「 yeahhhhhh!!!!!」


 タコのように口を尖らせ、黒人男が快感に身を震わせる。


 お嬢様は何がしたいのか。

 オレの首に腕を回し、顎を掴んできた。

 目を逸らすと思ったのだろうか。

 顔の位置を固定し、無理やりにタマオが前後運動する光景を見せられる。


「しっかり見なさい」

「いや、ある意味、見てられないですけど……」


 心底意地が悪く、相手を屈服させんばかりに、低い声で囁かれる。


「あなたから、全部奪うから。……あはっ❤」


 オレの頬に、自分の頬をくっ付け、まるで映画鑑賞でもするかのように、タマオが掘られる光景を見せられた。


 オレは、考えてしまう。


 確かに、行為自体は許されざる大罪なんだけど。

 こういうのって、普通は女――。

 いや、そもそも、どうしてタマオが被害に遭ってるのか、謎である。


「ごりょおおおおおお!」

「お、おう」

「たしゅ、け、へえええええ!」


 そう。

 お嬢様は、オレが啖呵を切ったことで、確実に狂ってしまったのである。

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