執着

 奴隷を辞めてから、5日が経った。

 便利屋に復帰したオレは、事務所に寝泊まりをして、仕事の片手間に市役所に他の町民と一緒に電話や直談判をしたり、とにかく行動に移した。


 ジョンくんなんて、子供の世話があるだろうに、無理をして付き合ってくれている。


 こうやって、良い人と巡り合えると、オレは心から思うことがある。

 国内の人間だろうが、外国の人間だろうが、怨み、憎むことは多々ある。だからこそ、オレはを憎しみで忘れたくない。


「役所が明後日に説明会開いてくれるって」


 ジョンくんがスマホをテーブルに置き、一息吐く。

 行動に移すと、そりゃもう早かった。

 やらないと、ダラダラしちゃうけど、実際に自分で動くとあっという間だと実感せざるを得ない。


 それだけ町の人たちが協力してくれたって事だ。


「ありがてぇ」

「急いで良かったね。測量が半分終わってたからさ。杭とか打たれてたもんね。一気に作り変えることはしないだろうけど。一度取り掛かったら、途中で辞めましたはないからね」

「ああ」


 椅子にもたれ掛かり、心地良い疲れから、息を吐き出す。


「でも、大丈夫?」

「何が?」

「ガトウィック家って、結構ヤバい所だよ」


 ジョンくんがコップにお茶を注ぎ、前に置いてくれた。


「おいおい。人身売買とか、そういうのかい?」


 金持ちならあり得るな、と思った。

 だが、ジョンくんは顔をしかめて、肩を竦める。


「……いや、ネットには情報がほとんど出てこないよ」

「だったら、分からなくないか?」

「そこなんだよ。ネットってさ。便利だけど、すぐに消せちゃうんだよ。そもそも、表に出さない情報なんて、ネットで広まりようがない。だから、ガトウィック家の家系図があってさ」


 家系図、と聞いてピンとこない。

 それで何が分かるのだろう。


「ウォール街を牛耳ってる家系に結び付いてるんだよね。いや、家系図はバラバラに記載されててさ。それを自分で繋げたんだ。そしたら、国際金融資本家の家柄みたいで、ちときな臭くなるけど。まあ、……戦争屋とも親戚関係にあるとか」

「戦争屋ってのは、……ごめん。分からないな。いまいち入ってこない」

「戦争屋は武器を売って、利益を得るんだよ。ほら。ウクライナの」

「分からねえなぁ」

「ようは、武器を売るために、戦争の引き金を起こすんだよ。俺の国がそうじゃないか。あんまり、自国を悪くは言いたくないけどさ」


 裏側で、糸を引くとか、そういう話だろうか。

 そういや、日本ってやたらとアメリカから武器買ってたっけ。

 あれもその一環か。


「だからさ。ゴロウちゃん目を付けられたら。たぶん、殺されるんじゃないかな、って。……その腕が何よりの証拠だよ」


 ジョンくんが視線を向ける先には、オレの二の腕があった。

 銃弾が掠めたせいで、血が止まらなかったのだ。

 酒を飲んでいた事もあり、なおさら出血は酷かった。


 救急車を呼んだから、かろうじて止血は施され、1日だけ入院をしたけど。


「大丈夫だ。オレはあんな小娘に負けないよ」


 肩の力を抜き、笑ってやる。

 問題は、金持ちのお嬢様より、明後日の説明会だ。

 奈良県を始めとした他の県には負けない。

 こっちだって、やってやる。


 オレは熱い気持ちが止まらなかった。


「お、煙草ないや」

「買ってこようか?」

「いや、いい。ちと出てくるわ」


 休憩室を出て、オレは煙草を買いにコンビニへ出かけた。


 そして、――拉致されたのだった。

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