甘えたい年頃

叶わぬ思い

 最近の家はすごい。

 何がすごいって、地下室があるのだ。

 地下にはトレーニングルームやダーツ、ビリヤードをする場所があり、壁や扉は分厚い。


 ちょっとしたシェルターだ。

 四部屋くらいあって、奥には食料や水など、よく分からない機械などが置かれていた。


 オレはビリヤードの台に寝かされ、手足に手錠をされていた。

 ライリーさんが手に持った乗馬用のムチをチラつかせ、見下ろしてくる。


「自棄になって、お嬢様に手を出すなんてね」

「違うって。聞いてくださいよ。あれは――」


 べちんっ。


「んおおおおお⁉」


 太ももを叩かれ、自然と腰を浮かせてしまう。


「あなた、いい年して恥ずかしくないの?」

「待ってくれよ。本当に手を出してないんだ」

「じゃあ、何で覆い被さってたの?」

「あれは、あの子が逆に覆い被さってきたんだよ」


 べちんっ。べちぃっ。


「んひいっ!」


 答える度に腹や太もも、腕など。

 絶妙な所を叩いてくるので、精神的に参ってくる。

 ちなみに、お嬢様は部屋に戻ってから、出てこない。

 ブチギレたライリーさんからは、折檻されているわけだ。


「あなたのスマホを見させてもらったけど」

「勝手に見ないでくださいよ!」

「うるさい!」


 べちっ。

 乳首の辺りを叩かれ、何とも言えない苦痛に身をよじらせる。


「いい年して、アニメやらなにやら。裸の女の子がいっぱい保存されていたわ」

「公開処刑じゃないか……」

「ねえ。恥ずかしくないのかしら? あれって子供が見るものでしょうに」

「違いますよ! アニメはね。海外と違って、子供から大人も楽しめる幅広いコンテンツなんですよ! 今のね。日本が、これだけ外国人だらけになっても、日本の現地人と外国人が盛んに交流されている場所ってどこか分かり――」


 べちぃっ!


 また乳首を叩かれ、言葉が途切れる。

 本当は手で擦りたいし、押さえたいけど。

 それができなくてもどかしかった。


「本当に気持ち悪い……」

「はぁ、はぁ、……オレのことを気持ち悪がるのはいい。昔から、そういう青春時代を送ってきた。でも、後悔はしてない。オレは、ずっと好きなものに好きだと叫び続けてきただけだ。女っ気こそないが、楽しみあえる仲間ができた。面識はなくても、ネットに行けば楽しんでる同士がいる。こんなに尊いことはないぜ」

「……何でアニメの話になると強情なのよ」


 オレは屈しない。

 好きなものを好きって、おかしい事ではないよな。

 だって、多種多様な文化があって、一人一人が興味のある事に対し、夢中になってるだけだ。


 スマホに保存されている画像は、こんなご時世でも二次元愛を忘れない同士が書いたエロ画像だ。


 大好きなのだ。

 ちなみに、オレは現実は現実で好きなのだ。


 空想と現実は全く違う。

 この違いをオレは愛している。

 違うからこそ、『ならでは』の良さがある。


 しみじみとしていると、いきなり腹にムチが振り下ろされる。

 服の上から伝わる痛みは、皮膚全体に広がった。


「い、ってぇなぁ」

「本当なら、このまま殺してやりたいわ」

「……それは勘弁してくれよ。だいたい、オレは辞めようとしたじゃないか。どうして辞めさせてくれないんだよ」


 オレがこう言うと、ライリーさんはクシャっと顔を歪めるのだ。

 本当に向こうの人って顔に出るよな。


「それができない理由があるの」

「理由って?」

「あなたが知る必要はないわ」

「いやいや! ガッツリ巻き込まれてるし! 無茶言うなよ!」

「…………」

「教えてくれ。どうしたら辞めれるんだ?」


 ムチの先端を手の平にペチペチとしながら、ライリーさんが答える。


「辞めるというなら、人生もセットで消えてもらう」

「だーかーら! 理由を話してくれ」


 オレがしつこく食い下がると、やっとライリーさんが口を開く。


「お前の外見が悪い」

「……ちょ、いきなり、……罵倒かよ」


 これには深く傷ついた。

 オレは自分をイケメンだと思っていないし、痴漢冤罪を避けるために電車には乗らない。


「お嬢様の部屋で、見たでしょう」

「見たって、何を? ……待てよ。写真の男か?」

「そうよ。父親だって話したでしょう」


 それとこれと、何の関係があるんだ。

 考えたオレは、ある事が思い浮かんだ。


「ホームシックか?」

「近いものね」

「だったら、電話して来てもらえばいいじゃないか」

「無理よ」

「どうして?」


 ライリーさんがムチをその辺の椅子に放り投げ、壁に寄りかかる。

 嘆息一つ吐いて、間を置いてから言った。


「……から……」


 手錠が外されたのは、少し時間が経ってからだった。

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