#3 「えっ? そんな使命が?」


「肉体が復活するって言ってたけど、何をすれば復活するの?」

「今という時代の知識とエネルギーを吸収すれば復活する」

「知識ってどんな知識?」

「世の中で起こっていることや今の時代のことわりを知ることだ」

「理って物事の原理とか仕組みとか?」

「そうだな。その理を理解すれば『今』という時に馴染めるのだ」

「じゃあ、テレビを流しっぱなしにしておけば少しは役に立つかもね」

とは何じゃ?」

「これだよ」

 僕はリモコンでテレビを点けてタケルに見せた。

「ほお。これも知識の板の仲間か?」

「そうだね、仲間だね」


 好奇心が刺激されたのか、タケルは食い入るようにテレビの画面を見つめている。まだ物に触れないのでリモコンを操作することができない。代わりに僕がチャンネルを変えてザッピングしていると偶然にも安倍晴明の映画をやっていた。


「私の知っている晴明はこれほど美しい男ではなかったぞ。これは作り物の物語か?」

「そうだね、楽しむことを目的とした作り物だね」

「そうか」


 タケルが安倍晴明の映画を熱心に観ている間、僕は大学の課題を片付けることにした。


    ****


 気がつくと映画はとっくに終わり、アニメの再放送に変わっていた。

 タケルはアニメを食い入るように観ては、時折楽しそうに声を上げて笑っている。


「楽しそうだね」

 僕はタケルに声をかけた。

「楽しいぞ。何より興味深いのは言葉遣いだな。数百年も経てば言葉も随分と変わる。私の使っていた喋り言葉はもう今の時代では使われていないんだな」

 ほんの数時間した経っていないのにタケルの言葉遣いが現代的に変わっていることに僕は驚いた。文官で軍師だったのは嘘ではないようだ。知識の吸収が恐ろしく速い。ホログラムのような姿だったのに今は心なしか輪郭がはっきりしてさらに立体的になっている。


「ひょっとして肉体が少し回復してる?」

「そうみたいだ。この知識の板は凄いな。観ているだけで知識がどんどん入ってくる」

「凄いのはタケルもだよ。やっぱり頭脳明晰なんだな」

「これなら予想より早く肉体を回復させることができそうだ。肉体が戻れば使命を果たすことができる」

「使命? タケルの使命って何?」

「有世、お前の鬼退治を手伝うことだ」


 僕は一瞬あっけにとられたが、すぐに大声で笑いだした。


「タケル、この時代に鬼はいないよ。いないものは退治できないだろ」

「有世、何を言ってる。鬼は今でもいるぞ。お前は自分の霊力の使い方を知らないだけだ。私が側にいればお前の見鬼の才も覚醒するはずだ。そうすれば鬼が見えるようになる」

「そんなもの見えなくていいよ。てか見たくない」

「諦めろ、有世。力を持つ者には責任も伴う。お前が鬼を見たくないと言っても、もう鬼たちはお前の存在に気づき始めてる。そのうち鬼たちがお前を襲いに来るぞ。死にたくなければ鬼を退治しろ」

「お前は式神じゃなくて疫病神だろ!」

「大丈夫だ。私が鬼退治の術を教えてやる。それから私は治癒の術が使えるから多少の怪我なら治してやる。ただし、死者を蘇らせる術は禁忌とされているから死ぬなよ」


 タケルはそう言うと、また楽しそうにテレビを観始めた。


 僕はあの蔵の中でとんでもない箱と出会ってしまった。

 昨日の僕自身に忠告したい。あの箱には絶対に触るなと。



 End

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箱入り男子 [KAC20243] 蒼井アリス @kaoruholly

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