#2 「役立たず」


 翌朝僕が目を覚ますと、超美形な平安男子の顔が目の前にあった。


「うわぁ!」


 僕は驚いて大きな声を出してしまった。


「おはよう」

 平安男子が優雅に微笑みながら朝の挨拶をしてきた。


 そうだった。昨夜、蔵から持って帰った螺鈿細工の箱が急に光って中から美形の平安男子が現れたのだった。自分のことを僕の先祖に仕えていた式神とか言っていたが、信じられるはずがない。だって良くできたホログラムにしか見えないのだから。


 今のところ害はなさそうなので僕は話を合わせてみることにした。


「おはよう。一晩中起きてたのか?」

「式神に眠るという行為は特に必要ではない。お前が寝た後この部屋の中をいろいろと観察しておった」

「何か面白いものでもあった?」

「お前の枕元に置いてある板が時々光って驚いたぞ。それは何じゃ?」

「板? ああこれね。これは『知識の板』と言って知りたいことは何でもこの板が教えてくれるんだよ」

「ほお、それは便利なものじゃな。私にもその板を使うことができるか?」

「無理じゃないかな。触れないし、声も僕にしか聞こえないなら使うことはできないと思うよ」

「そうか、それは残念じゃな。この時代のことをいろいろと知りたかったんだがな。だが触れるようになればその板は使えるのか?」

「触れれば使えるよ」

「そうか、ではじきに使えるようになるな」

「じきにってどういう意味?」

「今は光の中に浮かぶ陰のような姿だが、時間が経てば肉体が復活して物に触れるようになる。肉体が復活しても私の姿はお前にしか見えんし、声もお前にしか聞こえんのは変わらんがな」


 物に触れるようになったこの式神がスマホを使っている姿を想像したら可笑しくなった。まるで平安貴族のコスプレをしたコスプレーヤーじゃないか。


「名前を聞いてもいいかな」

 僕はこの式神をなんと呼べばいいのか知りたくて名前を聞いた。

真名まなをむやみに教えることは禁じられておる。名ならあるじのお前が付けてくれ」

「……うーん、じゃあタケルはどうかな。昔の神様っぽいでしょ」

「タケルか、良い名じゃ。お前の名は何じゃ?」

「僕は有世ゆうせいだよ」

「霊力の強そうな良い名じゃ」


 この式神の存在に興味が湧いてきた僕はタケルにいろいろと質問してみることにした。

「タケルは何ができるの? 悪霊退治とか敵との肉弾戦とかできるの?」

「できないことはないが得意ではない。私は武官ではなくて文官の式神だからな。お前の先祖の軍師のような役目だったんじゃ」

「えっ? 戦えないの? 役立たずじゃん」

「式神に向かって役立たずとは失礼な!」


 プライドを傷つけられて怒っているタケルの姿は妙に人間っぽく、僕は何だか楽しくなってしまった。


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