箱の中

妻宛の荷物

　私はフリーランスのシステムエンジニア。自宅が事務所で、たまに客先に打ち合わせに出掛けるくらいでほぼ外に出ない。昔は仕事で使うものを買いに秋葉原まで出かけたりもしたが、今は全部ネット注文だ。注文する時はいくつか必要なものが貯まった時にまとめて買うようにしているが、それでも箱がいくつも重なって届けられることがある。

　今日も宅配便が箱を五つも届けてくれた。

　早速箱を開ける。丁寧に開けていると、そのうちの一つが妻宛になっていることに気がついた。妻がネットショッピング？　一人で出来るんだ？　送り主は、数年前に風呂と台所をリフォームした時のメーカーで20cm×30cmくらいの段ボール箱。

　これは！　と、すぐに思い当たった。

　リフォームの時、キッチンツールを掛けるフックのついた調味料ラックが欲しいと言われていた。メーカーのおしゃれなものだ。だが、私はリフォームの見積もり金額に目ン玉が飛び出してしまって、一円でも削ろうとそんなもの百円ショップの物と機能は同じだろうと却下してしまったのだ。

　そんなに欲しかったのか。だからと言って内緒で買わなくたって…しかし、それにしては妙に軽い。よく見ると「バス用品」と伝票に書いてある。台所ではなく風呂で使うもの？　この大きさでこの軽さのもの。箱を振ってもなんの音もしない。一体なんだ？　

　風呂につける棚やフックは足りているはずだ。妻が帰ってくるまで待っていればいいだけなのだが、なんかソワソワする。えーい開けてしまえ。よく見ないで開けてしまったことにすればいい！

　箱を開けると、また段ボール。中でガタガタ動かないように折り目や出っ張りが上手い具合に付いている。ソレが2枚合わさっている間にブツはあるようだ。2枚をグルグルに止めてあるテープをカッターで切ってそっと開く。そこにはビニール袋にはいった直径7、8センチの黒い輪っか。

　風呂の排水溝のパッキンだった…

まったく大企業ってヤツは！

おしまい