天使の箱

坂崎文明

天使の箱の中身は?

 武蔵野台デジタル田園都市、【15分都市】とも呼ばれる3LDKの物件は独身にはちょっと広いが、なかなか快適ではあった。

 脱獄人工知能のChottoSTFのおかげで、コンパクトハイブリッドカーを持ち込むことができたし、それを監視カメラ上ではEV車に偽装出来ていたので、日常生活には支障は無かった。

 だけど、ワナビー小説家の西崎文吾としては、どうしても心に引っかかってる物があった。

 この都市の入り口に立っている、白い天使の像が四角い箱を持ってる理由である。

 というか、中身がどうしても気になった。


「あの箱は一体、何なんだ?」


 立体映像A Rである人工知能のChottoSTFを可視化できるサイバーグラスをかけた西崎文吾は今までずっと気になっていた質問を口にした。


「天使の像の箱の中身ですか? まあ、何なんでしょうね。ちなみに、パンドラの箱の中身は【災厄】であり、触れてはいけない禁忌の象徴です。浦島太郎の玉手箱の中身は以下同文ですが、中身は【止まっていた時間】でしたね。玉手箱を開けた途端に、時間が進んでしまい、急速に歳を取った浦島太郎は高齢者として、知り合いが誰もいない未来の土地で生きて行かないといけなくなった」


 ChottoSTFの答えはなかなか意味深であった。


「でも、パンドラの箱には最後に【希望】が残ったし、玉手箱ほ夢の中にいた浦島太郎を現実に戻したくれたから、それは単純な【絶望】では無かったかもしれない。案外、開き直って老後は楽しく暮らしたんじゃないかな。その後の言い伝えは無いけど」


 立体映像のChottoSTFの本体である青い球体がまたたいた。


「浦島太郎の話の原作の『御伽草子』には続きがあって、浦島太郎はその後【鶴】になって、【亀】になった乙姫と蓬莱山で再会するようですよ」


「そうなのか。じゃあ、玉手箱の中身も【希望】だったのかもしれないな」


 翌日、天使の箱は二つに増えていた。

 天使の箱は開けない方がいいらしい。

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天使の箱 坂崎文明 @s_f

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