第21話 初心者幽霊3

またいた。例の奴だ。

西院の寺門の陰から、恨めし気にこちらを見ている。段々幽霊っぽくなってきた気がしなくもない。しかし何でいつも朝に現れるんだ、こいつ?

ここで回れ右するのも何だか癪だったので、そのまま無視して通り過ぎようとしたら、案の定、「もしもし」と声をかけて来た。

「何でしょう」

俺が嫌そうに答えると、幽霊はさらに恨めし気な表情で言った。

「あなたがあまりにも薄情なので、私は中々成仏することが出来ません」

俺のせいかい!

「ですので、私は今後悪霊となって、世に祟ろうと思います」

悪霊だと?笑わせるな!

カチンときた俺は言ってやった。

「あなたの定義はおかしい。以前も言いましたが、幽霊の存在意義は、人間を驚かすことではないはずです。ところがあなたは既に私を驚かそうとして、しつこく付きまとって来る。つまり人間である私に対して、悪をなしている訳です。これを悪霊と呼ばずして、何と呼べばいいのでしょう。あなたは既に悪霊です。しかも初心者の」

俺のツッコミの反論できず、幽霊はたじたじとなる。そして一言呟いた。

「オーマイゴッド」

待て。今何といった?こいつもしかして。

「あなた、もしかしたら生前クリスチャンでしたか?」

「はい、そのように記憶しております」

幽霊はしゃあしゃあと答えた。

出る場所間違ってるだろ!キリスト教徒が成仏してどうするねん?

そう思った俺は、「ついてきなさい」と言って歩き出した。

そして幽霊を近くのキリスト教会まで連れて行く。教会の前まで来た俺は、幽霊に言ってやった。

「ここで神に祈りなさい。そうすれば天に召されるかも知れない」

幽霊はきょとんとしていたが、何か得心したらしく胸の前で手を合わせる。

するとあら不思議。

「ああ、あなたのおっしゃる通り、天に召されそうです。あ、召され始めました。お世話になりました。ありがとうございます」

幽霊は清々しい顔で言いながら、昇天して行ったのだった。

まったく手のかかる奴だ。

俺はスッキリした気分で、愛犬の散歩に戻った。

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