第14話 タオル
またまた愛犬の朝の散歩中の話。
いつもの散歩コースの途中にマンションがあって、道路に面した1階の部屋の前に張られた洗濯ロープに、いつも汚れた白いタオルが掛かっている。そのタオルが、いつからそこに掛かっているのか思い出せないが、気づいたらその部屋の前に掛かっていたのだ。
タオルは雨の日でも掛けっ放しだったので、その部屋は空き部屋で、前の住人がタオルを忘れて引っ越したのだろうと思っていた。部屋の雨戸はいつも閉じられたままだった。
ある朝通りかかると、その部屋の窓から手が伸びて、白いタオルを取り込んでいるのが見えた。
――新しい人が入ったのかな?
俺がそんなことを考えながら近づくと、取り込まれたタオルの代わりに、今度は真っ黒なタオルが洗濯ロープに掛けられた。
部屋の前を通るタイミングと、黒いタオルが掛けられるタイミングがほぼ同時だったので、俺は何気なく窓の方を見る。すると手は雨戸の隙間から出ていて、暗い部屋の中にいる住人らしき人影と一瞬目が合った。その瞬間慌てたように手は引っ込められ、雨戸がぴしゃりと閉められる。
俺は、何だろう?――と思いながら、前を通り過ぎた。
その日の夕食時、テレビを見ていると大事故のニュースが速報で流れて来た。
翌日、いつも通りマンションの前を通ると、タオルは昨日と同じで黒のままだった。
その日は午後に西の地方で大雨が降り、翌日のニュースを見るとかなり大規模な土砂災害が起こったようだ。
翌日からマンション前のタオルは、元の薄汚れた白いタオルに代わっていた。暫くの間、その白いタオルが掛かったままだったので、いつしか俺は気にしなくなっていた。
そんなある日。
マンションの前のタオルが、また黒に入れ替わっていた。
そしてその日、通り魔事件が起こり、大勢の被害者が出たというニュースが報じられた。
俺はとても嫌な予感がしたが、偶然だとその予感を打ち消す。
翌朝。
マンションの前を通りかかったちょうどその時、窓から手が伸びて赤いタオルが掛けられた。窓の奥を見ると、人影がにやりと笑ったような気がしたが、すぐに雨戸が閉じられた。
赤いタオル。
まさかな。
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