第12話 マネキン
これも愛犬の朝の散歩中の話。
散歩コースの途中に川がある。
普段は非常に浅くて、あちこちに草の茂った中洲が点在しているのだが、上流の山に雨が降ると、一気に水量が増す川だ。
ある日川に掛かった橋の上から下流を見ると、中州に何か大きなものが引っかかっていた。よく見ると、マネキンの胴の部分のようだった。誰かが捨てたのかも知れない。
近くの浅瀬では、この辺りでよく見かける白い大きな鷺が、嘴を川面につけて餌を啄ばんでいた。
翌日、いつもより少し早い時間に同じ場所通ると、川の上流からマネキンの腕が流れて来た。腕は川面を搔くように中州に近づいて行くと、マネキンの胴体の右肩にぴったりとくっ付く。
――これは例の展開だな。
そう思った俺は、成り行きを見守ることにする。まったく野次馬である。
翌日は右足が、その翌日は左腕が、そして4日目には左足が、上流から流れてきて胴体にくっ付いた。
――いよいよ、明日完成か。
俺は期待に胸を膨らませる。
翌日は、いつもよりかなり早く散歩に出かけた。
ここで最終形を見逃しては、悔やんでも悔やみきれないからだ。
橋の上に到着すると、まだ首は生えていない。
安心した俺が上流を見ると、首らしきものが転がるように流れて来た。
橋に近づいて来るのを見ると、間違いなくマネキンの首だった。
愛犬は散歩の続きに行きたそうだったが、俺は結末を見届けずにはいられない。
首は橋の下を通り、胴体の待つ中洲へと近づいて行った。
しかし。
途中の浅瀬で、いつもの白い鷺が餌を啄ばんでいる。
すると首は、鷺の足元の浅瀬に引っかかってしまった。
そして鷺は何を思ったか、首を足で掴むと飛び去って行ってしまったのだ。
俺は、あっ――と思って胴体に目をやった。
胴体は慌てた様子で立ち上がると、ぎくしゃくとした動きで、鷺を追って走り去って行く。
がんばれよ。
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