第8話 バスケットボール

最近年のせいか、目覚めが早い。大体5時ころには目が覚める。夏場などは4時台に目が覚めてしまう。

それに加えて最近は、飼い猫が5時頃に顔の上に乗って起こしに来るようになった。

困ったもんだ。

しかしその朝は、飼い猫より前にボールを点く音で目が覚めた。

誰かがバスケットボールを点きながら歩いて来るらしく、音がだんだん近づいてきて、家の前を通り過ぎると遠ざかって行く。

――朝っぱらから迷惑な話だな。

そう思っていたら、また音が近づいてきて、遠ざかって行った。

終わりかと思ったら、また音が往復を繰り返す。

その朝はそれで済んだのだが、それから毎朝ボールを点く音が同じ時間帯に聞こえるようになった。

妻にそのことを言うと、

「気にしない方がいいんじゃないの。それに、そんな時間にボールを持って歩きまわってるなんて、危ない人かも知れないし」

と、窘められた。それもご尤もと思い、気にしないようにしようと思ったのだが、よく考えると、俺の性格上それは無理だった。

翌朝も5時前に目が覚めた。

するとボールを点く音が近づいて来る。

俺は妻を起こさないように、そってベッドを離れると、物干し台に出た。家の前の通りを見ると、バスケットボールが車道を点きながら近づいて来る。しかしボールを点く人はいなかった。

ある程度予想していたが、困ったもんだ。

どうしようと思ったが、ちょうど家の前をボールが通った時に、「トラベリング(バスケットボールの反則の一つ)」と言ってみる。

するとボールは地面に落ちて一瞬止まった。俺の家の前は傾斜になっているので、ボールは静かに転がり落ちて行き、やがて見えなくなった。

これであの音に煩わされなくて済む。

めでたしめでたし。

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