第4話 首

今朝も愛犬の散歩に出かける。

いつものコースを回って、帰路に着くと途中の民家の塀から、手が生えていた。

「またか」と思ったが、無視して通り過ぎる。

すると後から声が掛かった。

「もしもし、手ですよ」

だから何――と思ったのだが、思わず振り向いてしまった。

まったく悪い癖である。

塀から生えた手は、ひらひらと揺らぎながら言った。

「あなた見えていますよね。何故無視して、通り過ぎるのですか?」

「ああ、面倒くさいので」

俺がそう答えると、手は言った。

「では、足の方が良いですか?」

そう言って手は引っ込み、今度は足が生えて来た。

やれやれである。

「足もいりません」

そう言うと、

「やはり首の方が良いですよね」

と言って、今度は首が生えて来た。思っていたより平凡な首だった。

髪の毛も普通に生えているし、傷もないし、血まみれでもない。

まったく期待外れだ。

そう言うと、首は憤慨した。

「一体あなたは、何を期待しているのですか?」

「別に大して何も期待している訳じゃないけど。それより手とか、足とか、首とか小出しにせずに、全身を表したらどうですか」

俺がそう言うと首は、

「滅相もない。そんなことは出来ません」

と、きっぱり断って来た。

こいつの弱点見つけたぞ――と思った俺は、

「では俺が引っ張り出してあげよう」

と言って、両手で首をつかんだ。すると首はもがき苦しみながら、

「やめて下さい。どうしてあなたは、そんな非道いことをするのですか?」

と言って、恨めし気の俺を見上げた。

勝った――と思った俺は、首に向かって言った。

「面倒くさいので、二度と俺の前に現れないで下さい。そうしないと、このまま引っこ抜きますよ」

と言って、首を脅す。

首は諦めたように言った。

「分かりました。貴方はまったく非情な人ですね。二度と貴方の前には現れません」

そう言って、首は塀の中に消えていった。

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