第2話 近所のおばあさん

今住んでいる家に引っ越して来た頃の話。

近所におばあさんが住んでいらっしゃった。

かなりの高齢とお見受けしたが、お元気そうで、夕刻になると、いつも俺の家の前を散歩がてら、何回か往復されているのを見かけた。

俺は喫煙者だったので、自宅のポーチに出てタバコを吸うのが習慣だった。

そんな俺と目が合うと、おばあさんは嬉しそうに話し掛けて来られる。一人暮らしのようだったので、暇を持て余しているのだろうなどと、勝手な想像を巡らせた。

しかし、正直お話させていただくのが面倒だったし、タバコを吸い終わっても、中々家に入らせてもらえなかったので、おばあさんが散歩されていても、ポーチにしゃがんで見つからないようにタバコを吸うようになった。我ながら姑息だなと思った。

1年程経って、また日が短い季節が巡って来た頃、ポーチに出てタバコの火を点け、何気なく左前方にある、電柱の方を見ると、誰か立っている。

何となく形がぼんやりとして見えたので、

「地縛霊?」

と思ったら、例のおばあさんだった。まったく失礼な話である。

その後も時折、その場所でおばあさんを見かけて、その都度<地縛霊>と間違えて、ドキッとさせられたのだが、これは何度も間違える俺の落ち度である。

その日も、性懲りもなくドキッとさせられたのだが、家に入って夕食の食卓を囲んでいる時に妻が言った。

「あそこのおばあさん、亡くなったらしいよ。町内会からお葬式の連絡が回って来てたわ」

「おばあさんって?」

問い返す俺。

「ほら、去年まで家の前を散歩してらした、あのおばあさんよ。町内会長さんの話だと、ここ1年位寝たきりだったんだって」

げっ!マジで?

と言うことは、今まで俺が見ていたのは、本物の地縛霊といくことか?

まさかそんな訳がない。地縛霊など存在しない。きっと俺の見間違いだ。

そうだ、他の人と見間違っていたに違いない。

俺は翌々日おばあさんの葬式に参列し、かなり真剣にご冥福をお祈りした。

それ以降はお見掛けしなくなったのだが、俺はそれを機会に禁煙することにしたのだった。

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