空箱

異端者

『空箱』本文

「随分と溜まったなあ……」

 私はその箱の山を見ながら、そう呟いた。

 目の前にあるのは、箱、箱、箱……プラモデルの箱の山だ。

 プラモデルは、組み立ててできる完成品に比べると箱の方がはるかに大きくなる。ランナーと呼ばれる枠から、個々のパーツを切り離して組み合わせるため、それを集約した完成品よりもランナーに繋がれたパーツ群の方がかさばるためである。

 そのため、完成後には箱が無駄に大きく感じてしまう。

「捨てようか……いや、なんか勿体もったいないし……」

 近年のプラモデルの箱はデザインも凝っている。インターネット通販で購入した際に、箱が傷ついていたと評価を下げる人までいる程だ。もはや箱も商品の一部と言って過言ではない。

「なんか……捨てる以外に活用方法があればなあ」

 私は呆然と箱の山を見つめた。

 家族からは、場所を取るからなんとかしろとせっつかれている。

 確かに場所は取るが、これも商品の一部だと思うと捨てるのは惜しい。惜しいが、邪魔になるのは事実だ。なんとか捨てる以外の利用法があれば――


 同市の某所にて。

「――という訳で、当市にサブカルチャー保存センターを設立します」

 市長がそう宣言した。

「……で、結局何をするの?」

「サブカルチャーとか言われても分からないんだけど」

「これ税金の無駄遣いじゃない?」

 周囲から不安そうな声が上がる。

 当然だ。具体的なプランは何もない。建物を建てることが目的のいわゆる「箱物行政」だからだ。どう施設を有効活用するかなど、考えはなきに等しい。

「これは、後の世代に向けての――」

 市長の演説は続いている。

 もっともらしい大義名分を掲げているが、ようは土建屋からの袖の下の「返礼品」という訳だ。白々しい。


 その後、市役所はちょっとしたパニックなった。

「予算が、建物を建てたら残りはほとんどありません! こんなので中身をどうすれば……」

「寄付だ! 寄付してもらうように呼びかけを!」

「そんな!? 寄付だけでまかなえませんよ!?」


 私は偶然にもインターネットでその呼びかけを見つけた。

「サブカルチャーに関する物、寄付募集!」

 読むと、市が新たに建設する施設に展示する物を募集しているらしい――これだ! と思った。

 私は念のため、市役所に電話をかけた。

「――とのことですが、箱で良いですか?」

「え? 箱ですか?」

 少し驚いたような反応があった。

 だが、私は気付かない様子を装って続ける。

「はい、箱だけでも良いですか?」

「ええ、もちろんです! 是非お願いします!」

 市役所職員の半ば自棄やけとも思える答えでするべきことは決まった。

 私は空箱を車に詰め込むと、市役所へと向かった。


 こうして、市の建設したサブカルチャー保存センターには、他と並んでプラモデルの空箱が展示されることとなった。

 施設は最初のうちは物珍しさから来客があったものの、すぐに飽きられて人は来なくなり、半年後にはほぼ「空っぽ」状態となった。


 今では、その大きな空箱の中にプラモデルの空箱が展示されている。

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空箱 異端者 @itansya

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