ロボットと機械の花 -Grave of my Dearest-

ジャック(JTW)

終局 オンボロロボットと機械の花

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 荒廃した世界の中、風に揺れる枯木がわびしくそよぐ。


 人々の喧騒も、自然の息吹もすべてが消え去り、ただ静寂が支配する。その中でただ一つ、錆びついた鉄のカラダを持つオンボロロボットがひとり、ゆっくりと進む。彼はかつての栄光を知る者たちの足跡を辿り、廃墟と化した都市をさまよっていた。

 オンボロロボットはずっと、長い時間をかけて探し物をしていたが、しか見つからなかったのだ。


 ──ガーギギギ ギガーギギ ギガーガーガーギ……


 そして、彼はたどり着いた。かつては賑わいを見せた科学者の研究所跡。その中にある不格好な石の墓標に、機械ネジやコードで作られた花を優しく供える。

 花は彼が作ったものだ。彼女のために造られた模造品モノ


 ──ガーガーガーギガー ガーギガーギギ ギガーギ ガーギギギ ギガーギ……


 ロボットは、そう呟くと、生前のハカセと過ごした時間の録画データを再生した。


 𓈒𓏸𑁍𓏸𓈒𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓈒𓏸𑁍𓏸𓈒


 彼女ハカセは地球最後の人類であり、ロボットの生みの親でもあった。彼女は死の間際でも忙しなく動き、ロボットを組み立ててくれていた。ハカセの手はほとんど欠けて、機械で補われており、彼女は「おそろいだね」と微笑んだ。


 ハカセは優しい笑顔でロボットを見つめ、その手でロボットの鉄の体を撫でた。その時、そもそもハカセの手は機械化しており、それにロボットには温度変化を感知する機能はない。そのはずだったが、それでも不思議と、ハカセからの温もりを受け止めることができた。


「君には寂しくてつらい仕事を任せてしまうことになる」と言いながら、ハカセはロボットを抱きしめてくれる。その言葉には、ハカセの優しさと愛情が込められていた。

 ロボットは、それを理解することはできなかったが、記憶回路ココロの奥底でハカセの言葉を受け入れた。


「いつか、私の好きな花を、お墓に供えてね」


 𓈒𓏸𑁍𓏸𓈒𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓈒𓏸𑁍𓏸𓈒


 何度も何度も、擦り切れるように再生した記録が終了する。その時、オンボロロボットの内部で異常が発生し、煙が立ち上る。ショートした弾みで、メモリーが破損してしまった。様々な環境変化に晒されたオンボロロボットは、重要な部分が壊れかけていたのだ。

 その結果、彼はもう二度とハカセとの記憶オモイデを再生することができなくなった。

 欠けたメモリーの残骸を寄せ集め、空虚感カナシミに包まれながらも、オンボロロボットはハカセの眠る墓に身を寄せた。


 ──ガーガーギガーガー ギガー ガーガーギガーギ ギガーギガーガー ギガー ガーギギガー ガーガーガーギガー……


 最期に囁くような言葉モールスを遺すと、彼は動かなくなった。遠く遠く、世界の果てまで花を探しに行く冒険の過程で、彼はとっくに崩壊寸前だったのだ。

 まるでハカセの眠る墓を抱きしめるような姿で、彼は静かに、永遠の眠りについた。



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 長い長い年月が流れ、ロボットの鉄の体も朽ち果てた頃。植物の芽が一つ生え、小さな緑色の葉が光を求めて伸びた。

 ロボットが体内で守った植物の種は、未来に命を繋いだのだ。荒廃した世界に、再びはなが息づき始めた。


 ──二人の墓標が、静かに花を見守っていた。



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ロボットと機械の花 -Grave of my Dearest- ジャック(JTW) @JackTheWriter

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