そうして浦島太郎はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ
青樹空良
そうして浦島太郎はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ
むかしむかしあるところに、浦島太郎という若者がいました。
浦島太郎は子どもたちにいじめられている亀を助けて、その亀に連れられて竜宮城にいきました。
そこでは大歓迎されました。正直、鯛やヒラメに舞い踊りされても(魚だし)、若くて美しい乙姫様が隣にいても特になんとも思いませんでした。が、衣食住が保証されていて食っちゃ寝していても許されるのでなんとなく居座っていました。
そして、とうとう浦島太郎は陸へ帰ることになりました。ごちそうばかり食べているのも正直飽きましたし、それなりに元の世界が懐かしくなっていたのでした。
「では、お土産にこの玉手箱をあげましょう」
乙姫様はそう言って、浦島太郎になんだか立派そうな箱を差し出しました。
「ここまでしてくれて、お土産までくれるの!?」
「この箱の中には……」
乙姫様が何か言おうとしているのにもかかわらず、浦島太郎はまだ乙姫様が持っている玉手箱をさっと手に取りました。
そして、
「ちょっと、待っ……!」
乙姫様の制止も聞かずに玉手箱を開けました。おまけに出てきた煙が少し鼻に入り、
「ふぁ、ふぁっくしょい!」
大きなくしゃみをしました。そのせいで、中から出てきた煙はほとんど全て乙姫様に掛かってしまいました。
「あ、ごめん」
浦島太郎は、まだ煙に包まれている乙姫様を見て謝りました。
ようやく煙が晴れると、
「誰!?」
中からは、見たこともないグレイヘアで60代くらいの素敵な女性が現れました。昔はとても美人だったと思えるような整った顔立ちです。いや、今でもとても美人で年を取った分だけ魅力が増していると言うべきでしょうか。身体も引き締まったままで、衰えを感じさせません。
「……」
女性はなぜだか震えていました。
浦島太郎は、訳もわからずその女性を見ていました。そして、口を開きました。
「あなたは、乙姫様のおばあさま、ですか?」
帰ってきた答えは、
「あんた、なんてことしてくれんのよー!」
でした。
「この箱にはあんたが、ここで過ごした時が入ってるって言おうとしてたの! それを私に向けるなんて最悪! これ、元には戻らないんだから! おばあさんとか失礼ね! 私が乙姫! お・と・ひ・め!」
そう言って、乙姫様は泣き出しました。
「まだ恋もしてないうら若き娘だったのに! 素敵な殿方に会ったときのために毎日筋トレも欠かしてないのに! なんで私がこんなことに……」
「乙姫様、おかわいそうに」
「お気を確かに」
嘆く乙姫様の周りには魚たちが集まって、口々に声を掛けています。
そんな中で、浦島太郎はそっと乙姫様に近付きました。浦島太郎はじっと乙姫様を見つめています。
「なによ、さっきまで綺麗だったのに、おばあちゃんになったって笑いにでも来たの?」
乙姫様は浦島太郎をキッとにらみ付けました。
「とんでもない!」
浦島太郎は言いました。
それから、意を決したように大きく息を吸い込むと、
「俺と結婚してください!」
深々と頭を下げました。
「は?」
乙姫様も魚たちも目をぱちくりさせています。
浦島太郎は若い姿だった乙姫様にはまったく興味がありませんでした。
でも、今は違います。
浦島太郎は、ババ専なのでした。
「俺はもう陸には帰りません。責任は俺が取ります」
浦島太郎はこれ以上ないくらいのキメ顔で言いました。そして、乙姫様の手を取って続けます。
「今のあなたはとても綺麗で魅力的です。俺をずっとあなたの側にいさせてください」
「……太郎さん」
その真剣な顔に乙姫様は心を打ち抜かれてしまいました。
そうして二人は、海の底の竜宮城でいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
二人のキューピッドとなった玉手箱は今も大切に飾られているということです。
めでたしめでたし
そうして浦島太郎はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ 青樹空良 @aoki-akira
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