箱の中身は完璧じゃない
羽間慧
箱の中身は完璧じゃない
ヲタクが買うグッズは、必ずしも中身が見えるとは限らない。袋や箱に入ったブラインド商品を、推しが出るまで買いまくるはめになる。透明で中身が見えるガチャガチャは、推しがいるかどうか判断しやすくて良心的だ。散財をさせるのは同じだけどな。
推しは確実にお迎えしたい。だから俺は、7940円を注ぎ込んでコンプリートボックスを買った。バイト代が命綱の高校生にとって、安くない出費である。ユイリィ以外のキャラが7人もいれば、仕方ないとは思う。そう思ってはいたのだ。
「しゅ~う! 酷いと思わないか? ビジュよって思って買ったんだぜ? それでこのざまだ……」
傷が癒えない俺は、彼氏ん家のこたつに潜り込んでいた。
『フィギュアは怖いよね。イメージ画像と箱が違うから(( (っ´ω`)ノヨチヨチ』
「にしてもだ! これを見てくれよ」
俺は持ってきた現物を見せた。マグカップに入ったユイリィがのんびりとくつろいでいる。頬杖のポーズやうねる髪は申し分ない。問題はフィギュアの命である顔だ。
「ユイリィ推しじゃないけど、軽く殺意湧いた」
「だろ? 俺んとこは低クオリティに笑うばっかりで、全然共感してくれねーの。柊だけだよ、真剣に聞いてくれるの。ちなみに、顔文字にするとどんな顔になるんだ?」
『許さぬ(๑ò ༥ ó ๑)』
可愛くむくれやがって。殺意なんて微塵も感じねーぞ。「恨む( º言º)」とか「銃(`・ω-)▄︻┻┳═一」の顔は知らないのかよ。
「マジで許せねーよ。手とか服のしわの塗りが雑とか文句言う奴は、こういうレベル見ても同じことが言えんのかな。一般人がサンプルみてーに顔を塗れるかっての!」
『塗れるよ(★≧▽^))/☆』
思いがけない申し出が低音ボイスで囁かれる。
「雪のユイリィ、俺がお化粧させてあげようか?」
「で、できんのかよ。作画崩壊の修復が」
『俺に任せて( ´꒳` )੭"』
柊は塗料と筆を持ってきた。
『雪の好みの出来にしたいから、拭き取りができる塗り方にするね。使うのはエナメル塗料、ラッカー塗料、クリア塗料(*´ᗜ`*)♪』
「なんか楽しそうだな」
『そりゃあ、俺の好きなもので雪を喜ばせられるからね( ,,ÒωÓ,, )✧︎*。』
「おぅ。よろしく頼む、柊」
顔文字も実物も輝いていて、手先の器用な彼氏様最高だと思った。
中身が見えない箱も、柊がいるなら悪くねーな。サンプルより化けすぎて、誘拐されないか心配になっちまったけどよ。
箱の中身は完璧じゃない 羽間慧 @hazamakei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます