ペンギン星を中心とした朝貢システムと貿易の実態

辰井圭斗

論文要旨

MACS0647-JD銀河においてペンギン星を中心とした朝貢システムが築かれていた(※1)ことは周知のとおりである。そもそもペンギン星について最初にまとまった研究を行なったのはLi[2057]であり、皇帝ペンギンを頂点とした統治機構と宗室のキングペンギンとの関係を主に扱った。Li[2057]の研究を契機として、学界にはにわかにペンギンブームが起こった。ペンギンブーム下で行われた研究は第1ペンギン世代(2057~2061)、第2ペンギン世代(2062~2067)、第3ペンギン世代(2068~2072※2)に区分され整理されている。ペンギン星の朝貢システムについて関心が集まるようになったのは、主に第2ペンギン世代からであり、Guan[2063]が先駆けである。第2ペンギン世代の論考はペンギン星の朝貢システムの徹底性に重点を置いたものが多かった。すなわち、MACS0647-JD銀河の他の星はペンギン星との民間貿易は許されず、公的には朝貢のかたちを取るしかなかったということである。それに対し、第3ペンギン世代のZhou[2068]は朝貢されたイカ・オキアミの量と、実際に市場に出回ったイカ・オキアミの量に大きな乖離があることを明らかにし、公的には朝貢のみが許されていたが、実際には朝貢に付随した民間貿易や密貿易も多く、むしろ後者の割合の方が多かったと主張した。Chen[2068]はZhou[2068]に対し、ペンギン星で生産されるイカ・オキアミの量が考慮されていないと指摘し、確かに民間貿易・密貿易は行われていたに違いないが、その割合は限定的だったとした。それに対しZhou[2069]はペンギン星で生産されるイカ・オキアミの量を推定し、市場流通量に対する割合としてはごく微小であるとする。Zhou[2069]に対する反論は管見の限りなされていない。Zhou[2069]以降、学界の関心は朝貢システム下の密貿易に移った。Wu[2071]は密貿易にアデリーペンギンとフンボルトペンギンが関わっているとした。確かにアデリーペンギンとフンボルトペンギン双方とも、密貿易への関与を示唆する史料を残している。特にフンボルトペンギンはイカ・オキアミだけでなく貴重な甲殻類の密輸入にも携わっており、「第二次フンボルトペンギンの乱」は密輸入した甲殻類を財源に武器を調達していたとLiang[2073]は主張している。密貿易に関してはMACS0647-JD銀河の他星の史料を使った研究も盛んで、代表的なものにはDong[2077]がある。しかし、朝貢以外の貿易のもう一方、「朝貢に付随した民間貿易」に関してはほぼ研究がない。一体「朝貢に付随する」とはどのような状態かすら、学界の共通認識がない状態である。無論ペンギン暦10879年に朝貢船と共に4隻の民間船が入港を果たした事例などは従来の論文でも言及されてきたが、ペンギン星を中心とした朝貢システムにおける民間貿易の役割は全くと言っていいほど明らかにされてこなかった。ペンギン星側の史料だけでは十分な調査ができなかったのが1つの原因だろう。そこで本稿ではペンギン星を訪れていた宣教師マカロニペンギン(※3)の記録をもとに民間貿易の実態を調査する。マカロニペンギンはもともとペンギン星の生まれだが、漂流をきっかけにブリザード教の教えに触れ、布教のためにペンギン星に戻ってきたペンギンである。マカロニペンギンの記録は2089年にようやく発見された。朝廷から離れた立場で独自の視点を元にペンギン星の制度を記録しており、扱いには注意を要するが、研究に有益な部分も多い。本稿は第1章でZhou[2069]によるイカ・オキアミの統計を再検討し、若干の修正を加える。第2章で朝貢に付随した民間貿易に関する既存の史料を概観する。第3章で既存の史料と宣教師マカロニペンギンの記録を合わせて検討し、朝貢に付随した民間貿易はいわば「黙認」のかたちを取ったもので、MACS0647-JD銀河の他星のみならずペンギン朝廷自体も民間貿易から少なからぬ利益を得ていたことを明らかにする。また、「黙認」の内容も、時代を経るにつれ変化していったことを述べる。



(※1)或いは「築かれている」。ペンギン星とは322億光年離れているので、我々が観測しているのは322億年前のペンギン星並びにMACS0647-JD銀河の状況に過ぎない。現在のペンギン星並びにMACS0647-JD銀河の状況は不明である。本稿では記述を簡潔にするため便宜上「築かれていた」とする。

(※2)第3ペンギン世代が終わる時期は諸説ある。例えばLiu[2088]は2075年まで続くとし、Wang[2089]は現在まで続くと主張する。本稿では学界で主流となっている2072年を取った。

(※3)マカロニペンギンについては、Lin[2068]など。

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