ナツキと箱の城
RIKO
ナツキと箱の城
「その箱、かわいい! 捨てるなら私にちょうだい!」
小学三年生のナツキは、高校生のお姉ちゃんが捨てたお菓子の箱を慌てて拾いました。
お姉ちゃんは「また、ナツキの箱集めが始まった」と苦笑いを浮かべています。
「使い道も考えないで、増やしていっても、邪魔になるだけなのに」
「だって、どれもこれもきれいで、捨てるなんてもったいないんだもん」
「なら、私が一つ、もらったげる。ちょうど、入れたいアクセサリーがあるの」
「やだ、私が集めた箱は、私だけのものなの!」
ナツキは、お姉ちゃんを無視すると、拾った箱を抱えて自分の部屋に戻ってゆきました。
部屋に入ると、ナツキはいそいそと机の一番下の引き出しを開けました。そこには、ナツキが集めた箱がぎっしりと詰まっていました。
ナツキは大きな箱に収まりそうな箱を一つずつ丁寧に重ねてゆくと、うふふと笑みを浮かべました。美しい箱が組み合わさる様子は、まるでお城を作っているかのようです。机の中には、ナツキだけが知る箱の国が広がっていたのです。
しかし、四年生になり塾通いが始まると、ナツキは忙しくなり、箱を集める余裕がなくなってしまいました。机の中の箱たちは、新しい仲間を待ちわびていましたが、やがて引き出しは参考書や文房具で埋まっていってしまいました。
箱の城の姿は、ナツキの記憶が薄れるほどに薄くなってゆきました。
* *
時が経ち、ナツキも高校生になりました。
近所のお菓子屋さんでアルバイトをしていたある日、包装用の箱を見て、ナツキは幼い頃に作った箱のお城を思い出したのです。
「そういえば、小学生の頃は箱のお城を作っていたな」と。
店の箱を一つもらって帰ろうかと、思いましたが、使い道もないし邪魔になるだけだと思い、ナツキはそれをやめてしまいました。
机の中の箱のお城は、その時、完全に消え去ってしまいました。ナツキが机の引き出しを開けた時、かつての箱たちはもうどこにもありませんでした。
~ 完 ~
ナツキと箱の城 RIKO @kazanasi-rin
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