第70話
「さて、始めるとするか」
と
「子狐、お前はただ身を委ねろ」
と
「うむ。分かった」
「おお! これは凄いぞ!」
「始まったな」
笑みを浮かべて、
「皆の者、慌てるでない。
と術者たちに言って、
「
と笑みを向けた。暫くは何事も起こらなかったが、術者たちは何かに怯え始め、叫んだり怒鳴ったり、泣いたりと、様々な苦しみを露わにした。
「みんな、どうしたのだ? 何が起こったのだ?」
「彼らは皆、それぞれに幻覚を見ているのだ」
「父上、私を見てください」
兄である、
「父上、私も上達したのです。だから、見てください」
何度、声をかけても、父には届かなかった。そして、兄である
「なぜ、私を見てくれないのです! 父上! 兄上までも! なぜ、私の言葉を聞いてくれないのですか!」
どんなに叫んでも、
「
「分かった」
「お前の幻術は、並の術者には解けぬだろう。この私でさえも……」
「苦しみを与えて悪かった」
と
「いや、この術を知る事が出来て良かった」
と手を握り立ち上がった。他の術者は、意識を失い倒れる者、放心状態の者と、正気に戻るまでには時間を要した。
「お前、大丈夫か? 他の奴らも、どうしたのだ? げんかくって、一体なんだ?」
「これは幻術といって、幻覚、つまり夢のようなものを見せたのだ。彼らが見たものは、それぞれ違う。ただ、一番怖いものが見えていたはずだ。それで皆、怯えたり叫んだりしたのだ」
「それじゃあ、お前も怖いものを見だのだな? 何が見えたのだ?」
と
「私が恐れるものが何か知りたいようだが、それは私の弱点でもある。教えることは出来ない」
と答えた。
「そうか! そうだよな! 弱点は教えちゃ駄目だな」
と
「それで、この術は何に役立つのだ?」
と
「この術を敵にかければ、皆、彼らのようになる」
と、術者たちに視線を向けて、
「戦う事が出来なくなるのだ」
と続けると、
「そうか! 敵が戦えなくなれば、俺たちの勝ちだな! 子兎、お前、意外と頭がいいんだな!」
と嬉しそうに言った。
「ああ。俺は賢いんだ」
「本当にお前たちは面白いな。一人の身体で二人が会話するとは」
と楽しげに笑った。
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