第66話

 一方、葛城山でも、都で起きた騒動を知り、物部もののべとの戦いについて策を練っていた。

まどか、お前はこの戦いに手を出すな。この葛城山に居ては危険だ。妻と子を連れて身を隠せ」

 玄理くろまろの父が言った。

「はい。叔父上」

 まどかは素直に答えたが、本心では玄理くろまろと共に戦いたかった。しかし、まどかには選択肢はない。葛城氏を途絶えさせるわけにはいかないのだ。後世に命を繋ぐという、大きな使命がある。先の戦いで、葛城氏も多くの仲間を失い、戦力が落ちている今、物部との全面戦争に勝てる見込みは薄い。物部には鬼術十篇きじゅつじっぺんがある。どうにか対策を取らねば、また、あの大戦の時のような地獄を見る事になる。まどかには弟がいて、名を蟻臣ありおみという。まどかをこの戦火から逃し、弟の蟻臣ありおみを立ててこの戦いに望む事となった。

「兄上、どうかご無事で」

 蟻臣ありおみが言うと、まどかは無言で頷き、別れを告げた。


 葛城円かつらぎのまどかとその妻子、まだ幼い弟子たち、そして、彼らの警護の者たちは、縮地しゅくちの術で瞬時に移動した。彼らの移動先を知る者は誰もいない。行き先が敵に知られることのないように、まどかの独断だった。


 葛城山では、これからの作戦を練る。主導するのは葛城蟻臣かつらぎのありおみ。彼は戦術に長けていた。そして、高位の修行者でもあり、術にも長けている。

「物部はいずれ、この葛城山へ攻め込むだろう。我らはここで迎え撃つ。敵の数は未知、こちらの数は少ない。そこで、敵の裏をかき、奇襲する。ここへ攻め込むのはいずれも術者だ。山へ入る者に幻術をかけ、惑わし分散させる。幻術を得意とする者にこの任務を与える。しかし、敵も術者。幻術がかからぬ者もいるだろう。むやみに攻撃してはいけない。幻術をかける者、そして、敵を観察し、状況を把握する者、そして、彼らを守り戦う者。少人数で組を作り行動する」

 蟻臣ありおみはそう言って、集まった者たちの顔を一巡した。ここに集まった者は、術に長けた猛者。彼らの下には若い術者たちがいる。

「人員の選出は任せる」

 蟻臣ありおみが言って解散した。


 玄理くろまろたちは、まず、鬼術十篇きじゅつじっぺんについての情報を得るため、美夜部みやべ紅蘭こうらん徐福じょふくの元へ向かわせた。美夜部みやべには縮地の術が使える。瞬時に移動し、徐福じょふくに会いに行くと、

「来る頃だと思っていた。さあ、どうぞ」

 と徐福じょふくが迎え入れ、美夜部みやべの話を聞いて、

「では、鬼術十篇きじゅつじっぺんをすべて教えよう」

 と徐福じょふくは術のすべてを書き記し、美夜部みやべに渡した。

「これで良いか?」

 美夜部みやべはそれを受け取り、

「聞きたい事がある」

 と前置きし、

「骸を傀儡として操る術には、どのように対抗すればいい?」

 兄弟たちの骸が傀儡として操られ、自分を殺した過去を思い出し、苦しそうな表情で聞いた。それを、心配そうに隣で紅蘭こうらんが見つめていた。

「そうだね……」


 徐福じょふくは一呼吸おいて、その術について語り始めた。


 あの術は、元々、そのような恐ろしい事に使うものではない。戦で多くの者が命を落とし、その骸を故郷へと移動するために、骸を歩かせる術。それを、先の大戦で物部氏が人の命を奪うために使ったことは、非常に嘆かわしい。もし、鬼術十篇きじゅつじっぺんを物部氏から奪う事が出来たなら、それを燃やして欲しい。そして、この複写も。


 と、徐福じょふくは陰鬱な表情を見せ、一呼吸おいて続けた。


 傀儡術に対抗する手段として、幾つか方法がある。

 傀儡術を使う者を斃せば、術は解ける。しかし、多くの傀儡を操るには、術者も多くいる。そのすべてを斃す。

 傀儡に呪符を張り付け、動きを止める。

 傀儡は日にあたると焼けて灰になる。

 傀儡に呪符を張り付け、こちらで傀儡術をかけ、傀儡同士を戦わせる。


 それを聞いて、美夜部みやべは黙って頷いた。これで、この傀儡術に対抗できると確信したのだろう。

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