第56話
薬園に着くと、薬園師が薬草の手入れをしていて、
「
と若い薬園師が笑顔を向けて挨拶した。
「おはよう! 仕事はどう? もう慣れたかな?」
「はい!
と答えた。
「はははっ。私ではなく、仕事を教えてくれた者たちに感謝しなさい。お前はよく働くと言って、褒めていたよ」
と
「おはよう! 今日は新入りを紹介に来たよ」
と、皆に声をかけた。すると、作業をしていた者たちは
「
一人の男が、屈託のない笑みを湛えて、
「まあ、まあ。みんな、葛城様に興味津々なのは分かるけど、落ち着いて。私からちゃんと紹介するから」
と
「では、改めて。こちらの御方が、典薬寮に新しく配属された、
と
「さあ、葛城様。何か一言」
「皆様のご期待に沿うよう努めますので、どうぞよろしくお願いいたします」
と言って、
「葛城様、頭を下げないで下さい。私たちよりも高貴なご身分なのに」
薬園師たちが、慌てて言うと、
「いえ、私は新参者です。身分は関係ありません」
と
高貴な身分の
「さあ、さあ。皆さん、仕事しましょう! 葛城様は私と一緒に来てくださいね。これから、薬の調合をします」
「葛城様、行きましょう」
と
「ここで、作業をします。最近、妙な病が流行っていてね、薬がたくさん必要なんです」
「
と声をかけた。
「うん、ご苦労様。患者の様子はどうだった?」
「薬を飲ませましたが、手足は冷たく、食事も取れない状態でした」
「それは危険な状態だね。薬の調合は君に任せる。私は患者を診て来るよ」
「葛城様は、私と一緒に来てください」
そう言って、
屋敷に着くと、家人が出迎え、
「どうぞ中へ」
と二人を案内した。部屋へ入ると、一人の少女が横たわっていた。頬は痩せこけ、肌の艶もなく、まるで老人のよう。
「ちょっと、診ますね」
「呼吸が浅く、手足は冷たい。脈も弱い」
「
「ご両親、娘さんを救うためには、霊力を分け与えなければならない。俺を信じて、協力してもらえないだろうか?」
と
「そんなことが出来るのですか? 娘の命が救われるのなら、何でもします!」
と父が言った。
「うむ。これから俺の言う通りにして欲しい」
「終わった。霊力は回復した。しかし、この病、一体なんだ?」
これは呪いではないと、
「分からないんですよ。最近、この病が流行っていて、私が診たのはこの子で十人目。大陸から来た病かもしれないと思っているんですけどね?」
と
「そうか。未知の病と言う事だな?」
「はい」
「あの……。この子は助かるのでしょうか?」
不安げな表情で母が聞くと、
「ちょっと診ますね」
「驚きましたね!
と
「うむ、今のところはな。原因が分からないから、まだ経過を診ないといけない。容体が変わったら知らせてくれ」
「何と素晴らしいお方だ! 感謝の言葉を尽くしても足りないほどだ。貴方にどんなお礼をしたら良いだろうか?」
と父が言ったが、
「いや、俺に礼は要らない。この子に霊力を分け与えたのはご両親。俺はその手助けをしただけだ。それに、まだ安心はできない。目を離さないように」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます