第53話
翌朝、食事を終えて、
「
布美が頭を下げると、
「うむ、行ってくる」
と
「旦那様、いってらっしゃいませ」
赤麻呂の妻が言うと、
「うむ」
と頷いて、
「
その言葉に、
「うむ。承知している。お前や、お前の家族を危険に晒す事はしないと約束しよう。ただ、家が出来るまでは居させてもらってもいいだろうか? 昼夜問わず、俺の式が家を建てているから、一月ほどで出来るだろう」
と
「うむ。それは構わない。ただ、俺は物部の動向を探る事はしない。下手に動けば怪しまれるからな」
赤麻呂が言うと、
「うむ。お前は何もしなくていい。これは俺たち葛城氏と物部氏の問題だ。俺も慎重に動く」
それからしばらくすると、牛車は宮殿に着いて、門番の確認が済むとそのまま奥へと進み、赤麻呂が務める朝堂の前で止まった。
「では、俺はここで。お前はあっちの建物だ」
と赤麻呂は指で指して言って、朝堂へと入って行き、
「これは、葛城様。今日からここでお勤めされると伺いました。ご案内致しますね」
と笑顔で
「これは、ご丁寧に。痛み入ります」
「いえ、いえ。礼には及びません。これからは一緒にお勤めするのですから、よろしくお願い致します」
と男は言って、
「あっ、失礼致しました。まだ、名乗っておりませんでしたね。私は
と最後は少し遠慮がちに言った。
「ええ、もちろんですとも。こうして話しかけて頂いただけでも嬉しいです」
と
「嬉しいです!」
と答えた。
「さあ、こっちです。今は人手が足りなくて、葛城様が来て下さると知って、私はどれほど嬉しかったか」
と
「すみません。私ばかりが話してしまって」
と恐縮しながら、建物の中へと
「葛城様は、呪術、仙術に長けていらっしゃるとお聞きしています。こちらでは、薬の調合もしています。皆様の体調を整えるため、病や怪我の治療などをしています。仕事の内容は大体こんなところです。分からない事があったら聞いて下さい。葛城様はまだ、来たばかりなので、私の仕事を見ていて下さればいいです。あっ、失礼な事を言ってすみません。葛城様の技量の方が、私より断然上ですが、ここでの仕事は見て覚えてくださいという意味です」
と、
「いえ、いえ。そんなにご自身を卑下なさらないで下さい。俺は山で修行して育ちましたから、他の方よりも術を得意とするだけです。都に住む方のような品がなく、無礼があったら言って下さい」
と
「葛城様、今日のお勤めはこれで終わりです。お帰り頂いて大丈夫ですよ。私は、ここで過ごして夕刻に帰りますが、どうします?」
「俺は赤麻呂の所へ行く」
と
「そうですか。それでは、また明日」
と
「赤麻呂、仕事は終わったのか?」
「ああ、終わった。お前はもう、帰るのか?」
と言葉が返って来た。
「お前は帰らないのか?」
「ああ、仕事を終えても、皆、夕刻までここで過ごす」
と答えた。
「
赤麻呂が言うと、
「分かった」
と
「こいつが
と赤麻呂が得意げな顔をして言うと、
「おお~!」
と感嘆の声が上がった。ここにいる者たちは、
「
「葛城山の修験者ですよね? あそこでは過酷な修行をしていると言われていますが、どんな事をしていたんですか?」
一人の若い男が質問した。
「過酷ではありません。そして、修行の内容は他言禁止なので、答えられません」
と
「すみません」
と謝罪した。
「まあ、まあ。
と赤麻呂が気を利かせて、皆に話した。
「そうか。赤麻呂も修行に行っていたのか。だから、術が使えるのだな」
と周りの者たちが納得して頷き合っていた。それから
「それじゃあ、俺たちも帰ろうか」
赤麻呂がそう言って、二人は牛車に乗って、屋敷へと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます