第50話

 二人が服を着ると、

「ここからは縮地しゅくちの術で葛城山まで行こう」

 と玄理くろまろが言った。身体が癒され、玄理くろまろの霊力は縮地の術が使えるほどに回復した。

「はい」

 布美ふみが返事をすると、玄理くろまろは笑みを向けて布美ふみを抱き寄せた。それから、縮地の術で瞬時に葛城山の麓まで行くと、

「ここからは飛翔していく」

 玄理くろまろ布美ふみにそう言って、二人の身体を霊気で包みそのまま山を昇っていった。


 頂上へ着くと、玄理くろまろの父と、兄弟子のまどかが二人を出迎えた。

玄理くろまろ、待っていたぞ」

 父が玄理くろまろに笑みを向けて言うと、

「父上、ただいま戻りました」

 と玄理くろまろは頭を下げて挨拶した。それから、

「父上、これは俺が娶った妻。出雲布美いずものふみです」

 と布美ふみを父に紹介した。

「うむ。よく来たね」

 玄理くろまろの父は、布美ふみに笑みを向けて、

「さあ、中へ」

 と二人を歓迎した。それから、玄理くろまろ布美ふみの祝いをすると言って、宴の準備を始めた。

「二人とも、長旅で疲れただろう?」

 玄理くろまろの父はそう言って、部屋で休むように促した。

「ありがとうございます」

 玄理くろまろは父に礼を言って、布美ふみと二人、部屋へ入ると、身体を横たえた。

布美ふみ、お前も」

 そう言って、布美ふみを隣へ寝かせると、そっと抱き寄せて頬に口付けをした。

玄理くろまろ様」

 布美ふみは名を呼んで、熱い眼差しを向けた。二人の視線が絡み合い、身体を寄せ合い口づけを交わした。熱い息が欲情を掻き立てて、身体は熱を帯び汗が滲む。二人は服を脱ぎ棄て、肌を合わせると、汗でねっとりと身体が張り付き、激しく情を交わした。


 夕刻になると、家人が部屋へ来て、

「宴の支度が出来ましたので、おいで下さい」

 と声をかけ、衣裳の用意された部屋へ二人を連れて行き着替えをさせた。布美ふみには高価で美しい婚礼衣装が用意されていて、装飾品で飾られると、

玄理くろまろ様……」

 と布美ふみは困惑の表情を浮かべた。

「父が用意させたのだろう。親孝行だと思って我慢してくれ」

 玄理くろまろが言うと、

「我慢だなんて。ただ、私にはこんな豪華な服に飾りはもったいなくて……」

 と布美ふみが困った顔をした。

「はははっ。こんな物、お前の価値に比べたら安い物だ。着飾る必要なんてないほど、美しいお前には、派手なものも高価なものも、すべてが霞んで見える」

 玄理くろまろはそう言って、布美ふみを抱き寄せて微笑みを向けた。


「さあ、二人とも、座りなさい」

 玄理くろまろの父が嬉しそうに二人を迎えた。それから二人が夫婦めおととなった事を認め、誓いの盃を交わして宴が始まり、それは皆が酔いつぶれるまで続いた。ほとんどの者がつぶれている中、

「さあ、二人は部屋で休みなさい」

 玄理くろまろの父はまるで、酒など飲んでいないように穏やかに笑みを浮かべて静かに言った。

「はい、父上。失礼します」

 玄理くろまろ布美ふみは頭を下げて、部屋へ戻ろうとした時、少し淋しそうな眼で見送るまどかが、玄理くろまろの視界に入った。玄理くろまろまどかに向かって、

兄様あにさま、おやすみなさい」

 と挨拶して頭を下げたが、まどかの淋し気な顔を見るのも辛く、そのまま背を向けて、部屋へ戻った。そんな玄理くろまろの様子に、布美ふみは気が付き、胸がちくりと痛んだ。そんな布美ふみの気持ちに気付くこともなく、

布美ふみ、今日は疲れただろう。ゆっくりお休み」

 玄理くろまろ布美ふみに優しく言葉をかけて、胸に抱いて眠った。

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