第47話

 翌朝、紅蘭こうらん美夜部みやべの匂いに気付いて目が覚めた。

「起きたか?」

 美夜部みやべ紅蘭こうらんの眠る傍らに座り、優しく微笑みを浮かべて、紅蘭こうらんの頭をそっと撫でた。

子兎こうさぎ!」

 子狐こぎつねの姿で眠っていた紅蘭こうらんは、飛び起きて四つ足で立ち、激しく尻尾を振った。

「俺に会えてそんなに嬉しいのか?」

 美夜部みやべが聞くと、

「おう! 嬉しいぞ!」

 紅蘭こうらんは人の姿に変化して、美夜部みやべの胸に顔をうずめるように抱きついた。

「可愛い子狐こぎつねめ。いつからそんなに甘え上手になったのだ?」

 美夜部みやべは笑みを浮かべて、紅蘭こうらんの身体を包むように抱きしめた。

「俺はどうせ甘えん坊だ。お前がそう言ったんだぞ!」

 美夜部みやべの胸に顔をうずめながら紅蘭こうらんが言うと、

「そうだったな」

 美夜部みやべはそう言って、紅蘭こうらんの頭に頬を寄せ、愛おしそうにその匂いを嗅いだ。

「淋しい想いをさせたな」

 美夜部みやべが言うと、

「うむ」

 と紅蘭こうらんは頷いた。

「これからはずっと一緒だ」

「うむ」

「嬉しいか?」

「うむ」

子狐こぎつね、泣いているのか?」

「……」

 返事をしない紅蘭こうらんの顔を見る為、美夜部みやべはそっと身体を離した。

「もう一人にはしない」

 美夜部みやべはそう言って、紅蘭こうらんの顎をそっと持ち上げて自分の方へ向かせると、涙で濡れた頬にそっと口づけをした。

「うむ」

 美夜部みやべ紅蘭こうらんの涙を袖でそっと拭い、

「腹が減っただろう?」

 と優しく聞くと、

「おう! 腹が減ったぞ!」

 紅蘭こうらんはいつものように元気に答えた。


 紅蘭こうらん美夜部みやべが食事を終えた頃、

「具合はどうだ?」

 と玄理くろまろが部屋へ来て尋ねた。

「うむ。問題ない」

 と美夜部みやべが答えた。

「そうか。しかし、まだ安静にしていろ。霊力が回復していない」

 玄理くろまろが言うと、

「ふん! 自分の身体だ。言われなくても分かっている」

 と美夜部みやべは口の端を上げて言った。

「うむ」

 玄理くろまろは頷いて、一呼吸置き、

「俺の目的は達成した。このあと、俺は布美ふみを迎えに行き、葛城山へ帰る。お前はどうする?」

 と美夜部みやべに尋ねると、

「俺はあやかし。葛城山へは戻らぬ。子狐こぎつねと共に暮らす」

 そう言って、紅蘭こうらんを抱き寄せた。

「そうか。それなら、ここでお別れだな。俺は行く。また、いつか会えるだろう」

 玄理くろまろが言うと、

「うむ」

 と美夜部みやべは頷き、

玄理くろまろ、また会えるんだよな?」

 と淋し気に紅蘭こうらんが言う。

「うむ。お前たちがどこに居ようと、また会いに行く。それまで、暫しの別れだ。悲しむことはない」

 と玄理くろまろ紅蘭こうらんに笑みを向けた。

「おう! また会おう!」

 紅蘭こうらんは元気に答えて、彼らは別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る