第42話

 それから三人は街を歩き、工芸品などを見ていた。そして、朱色の美しい玉が幾つも付いた首飾りを見つけた紅蘭こうらんが、

「おっ! これ、すごく綺麗だ!」

 と飛びつくように駆け寄ると、

「そうでしょう? この綺麗な色はなかなか無いよ。今を逃したら手に入らない」

 と商売上手な男が言う。

『それを貰おう』

 美夜部みやべ紅蘭こうらんの隣に来て言うと、

「俺に買ってくれるのか?」

 と紅蘭こうらんが聞く。

『そうだ』

 と美夜部みやべ紅蘭こうらんの肩にそっと手を置き答えた。すると男は、

「そりゃあいい! あんた、いい物を買ってもらったな」

 と紅蘭こうらんに向かって言うと、美夜部みやべから代金を受け取り、首飾りを紅蘭こうらんへ渡した。

「うわ~! 本当に綺麗だ! 子兎こうさぎ、ありがとう!」

 と紅蘭こうらん満面の笑みで礼を言うと、

『うむ』

 と美夜部みやべは返事をして、

『つけてやる』

 と言って、紅蘭こうらんの首にそれを付けた。玄理くろまろはそんな二人を温かな眼差しで見つめた。美夜部みやべに買ってもらった首飾りに触れて、心なしか紅潮する紅蘭こうらんは、玄理くろまろから髪飾りを買ってもらった時と違う表情をしていた。

紅蘭こうらん、良かったな」

 玄理くろまろが笑みを向けて言うと、

「おう!」

 と紅蘭こうらんは返事をして笑みを返し、美夜部みやべに向かって、

「これ、ずっと大切にする!」

 と誓いのような言葉を言った。

『うむ』

 美夜部みやべは満足気に頷いて、

『腹が減っただろう?』

 と紅蘭こうらんに聞いた。

「おう、腹が減ったな」

 紅蘭こうらんがそう答えると、工芸品売りの男が、

「飯なら、すぐそこで食べられるよ」

 と指を指した。

『うむ』

 と美夜部みやべが返事をして、

『行こう』

 と紅蘭こうらんを促した。玄理くろまろ美夜部みやべ紅蘭こうらんのあとに続いて店に入った。

「いらっしゃませ! どうぞこちらへ!」

 と店の者が席へ案内した。

『うむ』

 美夜部みやべが返事をして席に着くと、

「みなさん、どちらから来たんです? まるで仙人みたいだ。それに、こんな美しい人たちは見たことがない!」

 と店の者が言う。すると、酒を飲んでいた男たちも、玄理くろまろたちを見て、

「ほんまや。なんて美しい!」

 と口々に言う。そんな騒々しさに美夜部みやべは眉を寄せて、卓に肘を付き、

『騒々しい』

 と一言言った。

「まあ、まあ。そう、騒がないで。俺たちは旅をしている。弟たちが腹を空かせているので、何か持ってきてくれ」

 と玄理くろまろが苦笑いしながら、店の者に言って、

紅蘭こうらん、お前は肉がいい?」

 と聞くと、

「おう! 肉がいい!」

 と元気よく答えた。それを聞いて、

「男やったのか! こがにたおやかで可憐ながに?」

 と一人の男が言って、また、騒々しくなった。それに美夜部みやべが顔を顰めて、

『ふんっ!』

 と鼻を鳴らし、紅蘭こうらんを抱き寄せて、

いやらしい目で見るな!』

 と男たちへ眼光を飛ばすと、男たちはばつが悪そうに肩をすくめて鎮まった。

「ごめんね、気を悪くしないで。二人の仲を察して欲しい」

 と玄理くろまろが弁解するように言うと、男たちも納得したようで笑みを浮かべて、

「そがなことか。こちらこそ、失礼な事をして済まざった」

 と男たちが謝る。それを見て美夜部みやべはまた、鼻を鳴らしたが、今度は口の端を上げていて、怒ってはいないようだった。


 店の者が料理を運んでくると、

「おっ! 美味そう!」

 紅蘭こうらんが嬉しそうに言って食べ始めた。それを優しい眼差しで見つめる美夜部みやべに、

「ほら、お前も食えよ!」

 と紅蘭こうらん美夜部みやべの口元に肉を突き出すと、

『うむ』

 と言って、それに口を付ける。

「美味いだろう!」

 紅蘭こうらんは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言った。

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