第26話

 玄理くろまろたちの卓に料理が運ばれてくると、紅蘭こうらんは嬉しそうに手掴みで肉を食べ始めて、

「美味い!」

 とご満悦。玄理くろまろは優しい眼差しを向けて、

「良かったな」

 と紅蘭こうらんに声をかけて、箸で肉を掴み、

美夜部みやべ、ほら、あ~ん」

 といつものように、美夜部みやべの口元へ運ぶ。美夜部みやべも何の違和感もなく受け入れて食べている。それを見て紅蘭こうらんが、

「お前ら、本当に仲良しだな」

 と笑みを浮かべて屈託なく言うと、二人は、はっとしたように見合って、

「はははっ。そうだった。もう小さな白兎しろうさぎではないな」

 と玄理くろまろが笑い、美夜部みやべは箸を持って、何事もなかったかのように自分で食べ始めた。

「ん? どうしたんだ? 子兎こうさぎ、自分で食べるのか?」

 紅蘭こうらんが言うと、

『ふんっ』

 と美夜部みやべが鼻を鳴らす。

「なんで、こいつは不機嫌なんだよ。肉も食べられて嬉しくないのか?」

 紅蘭こうらんが聞くと、

「俺に食べさせてもらって、恥ずかしかったんだよ。だから、もう、何も聞くな」

 と玄理くろまろ紅蘭こうらんに言う。何が恥ずかしいのか、紅蘭こうらんには分からないようで、小首をかしげている。

「ねえ、あんた。この辺りで宿はないか?」

 玄理くろまろが話を切り替えるように、店の者に聞くと、

「神様、宿をお探しでしたら、私のあるじの御屋敷へご案内します。きっと、あるじもお喜びになります」

 と先ほど店に入って、玄理くろまろを神様と呼んだ男が言った。

「そうか。それなら、食事が済んだら案内を頼む」

 と玄理くろまろは答えた。


 食事が済むと、

「神様、どうぞこちらへ」

 と男が先導して歩く。

「その、神様はやめてくれ。誤解を生む」

 玄理くろまろが苦笑いしながら言うと、

「そうですか? それでは、何とお呼びしたらいいでしょう?」

 と男が尋ねた。

「それじゃあ、仙人とでも呼んでくれ」

 と玄理くろまろが答えた。

「はい、では仙人さまとお呼び致します」

 男が後ろを歩く玄理くろまろを振り返って言う。


 暫く歩いて、立派な屋敷の前で男は足を止めた。

「こちらがあるじの御屋敷です」

 男がそこまで案内すると、屋敷を守る者が、

「何者だ?」

 と玄理くろまろたちに尋ねた。

「こちらの方は、仙人さまです。海峡で船が波に飲まれるところを助けて頂きました」

 と男が説明すると、

「そうか。では、そこで待て」

 そう言って、奥へ入って行き、暫くして戻ってくると、

「そこの者たち、あるじがお呼びだ。中へ入れ」

 と言う。その態度に、紅蘭こうらんは不満げな顔をしたが、玄理くろまろが無言で笑みを向けて諭した。


 玄理くろまろは案内してくれた男を振り返り、

「ありがとう」

 と礼を言うと、

「いえ、私は何も」

 と言ったあと、

「では、失礼します」

 と頭を下げて、去っていった。玄理くろまろは案内の男を見送ると、屋敷守りの男のあとについて行く。大きく立派な家屋があり、その前まで来ると、

あるじが中でお待ちだ」

 と言って、男がそこまで案内すると、また別の男が、

「どうぞ、お上がり下さい」

 と笑みを向けて、丁寧に出迎えた。

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