第18話

 その夕刻、出雲氏の屋敷では、玄理くろまろ布美ふみの祝言が行われた。

「布美、お前の美しさに皆が霞んで見える」

 隣に並ぶ布美を見て玄理くろまろが言う。

「まあ、玄理くろまろ様、褒め過ぎです」

 と布美は頬を赤く染めて微笑みを返す。

「お前は着飾らなくても綺麗だが、その服はとても似合っている」

 玄理くろまろの言葉に、

「嬉しい」

 と布美は満面に笑みを浮かべた。


 宴に集まったのは出雲氏の者と、近しい者たちで、布美が男であることを知らない者もいた。

「なんと美しい方だ」

「あの国造くにのみやつこの妹がこれほど美しいとは」

 と言う声が聞こえてくる。すると、

「あれは出雲布奈いずものふなの弟だ」

 と誰かが言う。布美が男だと知ると、小さなざわめきが起きる。皆、思う事を口にしている。それが布美の耳に届く事を案じ、

「布美」

 玄理くろまろは妻の名を呼んで、そっと身体を引き寄せ懐に抱いて、

「皆がお前の容姿を褒め称えているが、そんな言葉は聞かなくていい。俺の美しい妻であるお前には、俺の言葉だけを聞いて欲しい」

 と言った。玄理くろまろは布美の耳に心無い言葉が聞こえないようにした。宴が終わると、

玄理くろまろ、今夜は二人で夜を過ごせ」

 出雲布奈いずものふなはそう言って、二人に部屋を用意した。

「うん、ありがとう」

 玄理くろまろは礼を言って、少し疲れた様子の布美を抱き上げ、用意された部屋へ入った。

「布美、疲れだろう? ゆっくり休むといい」

 玄理くろまろはそう言って、しとねに布美をそっと下すと、

玄理くろまろ様、私は夫婦めおととなった者の初めての夜に何をするのかを知っています」

 と布美は恥ずかしそうに言った。

「そうか。お前が望むのなら」

 玄理くろまろはそう言って、布美の頬にそっと唇で触れた。布美が僅かに身体を震わせると、玄理くろまろは布美の頬に優しく触れて、

「お前を傷つけはしないよ」

 と耳元に囁いた。布美の身体に痺れが走り、それが何とも言えない快感だった。

玄理くろまろ様」

 布美はそう言って、彼の身体に縋りついた。その後二人は互いの肌に触れて、その温もりを確かめ合う。玄理くろまろも他者とこうして肌を合わせることは初めてではあったが、その幸福感に満たされた。

「布美」

 玄理くろまろは、少し汗ばむ布美の頬に貼り付く髪をそっと除けてその頬に口付けし、

「ゆっくりお休み」

 そう言って布美の身体を抱いてそのまま眠りについた。

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