第15話

 赤麻呂あかまろのおかげで、金立山こんりゅうざんの場所が分かったが、そこへ向かう事の難しさも知った。どれくらいの距離があるのかは分からないが、数か月はかかりそうだった。

「さて、旅はまだ始まったばかりだが」

 先の長い旅だが、玄理くろまろには一つ心配事があった。美夜部みやべがこの白兎しろうさぎの身体に定着し、蘇生が出来なくなるのではないかと危惧していた。赤麻呂が早く禁書を見つけろと言ったのは、彼もそれを考えたに違いない。きっと、美夜部みやべ本人も気付いているだろう。やはり、この旅は急ぐ必要があった。

 そこでまずは以前、訪れたことのある出雲の国へと縮地しゅくちの術で移動した。

「その術は便利だな」

 紅蘭こうらんが言うと、

「そうだな。しかし、これには霊力を多く使う。だから、暫くは使えない。明るいうちに進もう」

 そう言って、玄理くろまろは歩き出した。

「ここからだと、目指す場所は近いのか?」

 紅蘭こうらんが聞くと、

「ここからでも遠い。でも、だいぶ近付いたよ」

 と玄理くろまろは答えて、紅蘭こうらんを励ましたが、それでもかなり遠い。


 出雲の国についたばかりだが、ここにも関所が設けられていて、通行手形の確認が行われた。役人が手形の書面を見て、

葛城かつらぎ氏か。その者も同族か?」

 と玄理くろまろに尋ねた。

「彼は同族ではないが、友人だ」

 と玄理くろまろが答えると、

「いいぞ。行け」

 と役人は追い払うように言った。

「ありがとう」

 玄理くろまろは礼を言って関所を通ると、栄えた街に入った。

「ここも都みたいに人が多くて賑やかだな」

 紅蘭こうらんが嬉しそうに言うと、

「そうだな。ここは物作りの街として栄えている」

 と玄理くろまろが答えた。


「変わらないな」

 と玄理くろまろは懐かしむように呟いた。

「え? 玄理くろまろはここに来たことがあるのか?」

 紅蘭こうらんが聞くと、

「ああ。だから、縮地しゅくちの術でここへ移動できた」

 と玄理くろまろは答えた。その時、

「兄上~! 待ってくださいよ!」

 と幼い少年の声が聞こえてきた。

「兄上じゃなくて、姉上って呼んでって言ってるじゃない」

 と少女が答える。

「だって、兄上は男だから姉上じゃないですよ」

 と幼い少年が言葉を返した。少女は後ろを歩く幼い少年を振り返りながら小走りで歩き、玄理くろまろと真正面でぶつかった。しかし、玄理くろまろはその衝撃を和らげるように優しくそっと包むと、

「娘さん、大丈夫? ちゃんと前を向いて歩かないとね」

 と微笑みを向けて言った。

「あら、ごめんなさい」

 と少女は顔を上げて玄理くろまろを見つめると、

「あっ! 玄理くろまろ様?」

 と声を上げた。

「そうですが、どこかでお会いしましたか? こんな美しい方を忘れるなんて、俺は恥知らずですね?」

 と玄理くろまろは答えた。

「あら、玄理くろまろ様。きっと、覚えていらっしゃるはずよ。私は出雲布奈いずものふなの弟の布美ふみですよ」

 と布美ふみが言うと、

「あの布美ふみなのか?」

 と玄理くろまろが驚いた。

「そうですよ」

 と布美ふみが美しく微笑む。

「気が付かないわけだ。あの時はまだ小さな少年だったのに、今は、こんなにも美しく成長しているのだからな」

 と玄理くろまろは微笑みを返した。

「兄上? お知合いですか?」

 と布美ふみの弟が聞く。

「ええ、そうよ」

 と布美ふみは弟に答えて、

玄理くろまろ様、これは私の弟の布由ふゆです。さあ、布由ふゆ、ご挨拶して」

 と言うと、

玄理くろまろ様、僕は出雲布由いずものふゆです」

 とぺこりと頭を下げた。

「うん。布由ふゆ、俺は葛城玄理かつらぎのくろまろだ。この者は俺の友人で、紅蘭こうらんという」

 と玄理くろまろは名乗り、紅蘭こうらんを紹介した。

玄理くろまろ様、ここでは何ですから、家へいらしてください。兄も喜びます」

 と布美ふみに案内されて、出雲氏の屋敷へ行った。

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