第14話

赤麻呂あかまろ、心配かけたな」

 と玄理くろまろは声をかけて、これまでの事を語った。


 大戦については、赤麻呂も知っていたが、その壮絶さを目にしたわけではないため、玄理くろまろの口からその当時の状況を詳しく聞いて、赤麻呂は目を赤くして複雑な表情を見せた。


「なんと恐ろしいことだ。美夜部みやべが命を落としたことは知っていたが、そんな事になっていたとはな。死者の弔いは適切に行われたのだろう? 悪霊と化すことのないことを祈ろう」

 赤麻呂にとっても、美夜部みやべは学を共にした仲だった。

「その事についてだが」

 と玄理くろまろは前置きして、彼らのいる部屋に結界を張り、外界と隔てた。

「なんだ? 他の者に聞かせられない秘密でもあるのか?」

 と興味深げに、赤麻呂が聞く。

「ああ。お前、この紅蘭こうらんが何者かは気付いているな?」

 玄理くろまろの質問に、

「ああ。狐だろう? お前が連れている友人なら、何者でも構わない。だが、秘密は狐ではないだろう? 美夜部みやべの気を感じるが、霊魂を連れて歩いているのか?」

 と赤麻呂が問い返す。

「まあな」

 そう言って、玄理くろまろふところから白兎を出して、赤麻呂の前に置く。

「おや? 美夜部みやべがこんな姿に?」

 と驚きながらも、笑みを浮かべる赤麻呂だが、

「それで、このあと、美夜部みやべをどうしようとしている? 彼の身体は無事なのか?」

 と聞いた。

「ああ。美夜部みやべの身体は無事だ。そこで、お前に聞きたい事がある。蘇生術が記された書。『鬼術十篇きじゅつじっぺん』がどこにあるか知っているか?」

 玄理くろまろの問いに、

「それは知らない。聞いたこともないが? そんな書があったら、みんな血眼になって探すだろうよ。お前が美夜部みやべを元に戻したい気持ちは分かるが、鬼術は危険を伴うから、使うべきではない。だから、禁書となっているのだろう。そして、その所在も明かされないのだ」

 と赤麻呂が答えた。

「なら、徐福じょふくという者を知っているか?」

 と玄理くろまろが質問すると、

「徐福……。どこかで聞いたような名前だな?」

 と考えて、

「ああ、思い出した。昔、大陸から不老不死の妙薬を求めてこの国へ来た渡来人だ。その事について書かれた書があったはず」

 と赤麻呂は書棚から一冊の書物を持って来た。その頁を、徐福と呟きながらめくると、

「あった! これだ」

 と言って、その頁を玄理くろまろに見せた。

「ほら、ここを読んでみて」

 と言われて玄理くろまろが読むと、

「まさしく、これだ。不死の山で出会った仙人が言っていた」

 と呟く。

「え? お前、不死の山へ行ったのか? その禁書を求めて? それで、仙人に会っただって?」

 と赤麻呂は驚き、

「それで、禁書の名を『鬼術十編』と教えてもらったのか?」

 と聞くと、

「そうだ」

 と玄理くろまろが答えた。

金立山こんりゅうざんに徐福がいると聞いたが、その山がどこにあるかが分からない。西の方だと聞いているが」

 玄理くろまろが言うと、赤麻呂が書物の頁をめくり、

「ここに、ほら、火の国と書かれている。そこに金立山がある」

 と言った。

「火の国か。本当に、随分と遠いな。赤麻呂、お前に聞いて良かった。ありがとう」

 玄理くろまろが言うと、

「お前の役に立ったのなら私も嬉しいが、徐福という者が火の国を訪れたのは、大昔の話だ。大陸の始皇帝の時代だぞ? 生きているはずはない」

と赤麻呂は言った。

「普通なら生きてはいない。だが、不老不死の妙薬を手に入れたなら?」

 と玄理くろまろが聞く。

「なるほどな。それなら可能性はある」

 赤麻呂は納得して頷いた。それから、さっきから気になっていた白兎しろうさぎ美夜部みやべへ視線を向けて、

美夜部みやべ、久しいな。話すことは出来るのか?」

 と声をかけた。

『赤麻呂、この姿の俺に何を聞きたい?』

 と美夜部みやべがつっけんどんに言う。

「ああ、本当に美夜部みやべだ。お前が生きていて嬉しい」

 と赤麻呂が言うと、

『この状態は生きているとは言い難い』

 と美夜部みやべが気落ちしたように言う。

「まあ、俺はこの美夜部みやべも好きだがな。禁書を手に入れたら、元に戻してやるよ」

 玄理くろまろはそう言って、白兎の美夜部みやべを抱き上げて頭を撫でた。

『やめろ』

 と美夜部みやべは言ったが、目を細めて喜んでいるようだった。それを見て赤麻呂が、

「二人とも元気そうで何よりだ。玄理くろまろ美夜部みやべの為にも、早くその禁書を見つけろ。美夜部みやべが元に戻ったら、また遊びに来いよ。待っている」

 と言って、笑みを浮かべた。

「うん。ありがとう」

 玄理くろまろは礼を言って、赤麻呂の屋敷を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る