第4話

 戦いは終わった。玄理くろまろの側が負け、敵が勝った。そして、大王が決まり、元号が改められ、新しい時代が始まった。

 戦場の遺体は、玄理くろまろたちの一族とその配下の者たちが術を使いすべて回収した。その中には敵の者もいたが、丁重に葬った。

玄理くろまろ美夜部みやべの霊魂を縛ってしまったな。これからどうするつもりだ?」

 玄理くろまろの父が聞く。父は葛城かつらぎ家の当主であり、術者の総本家の当主。多くの術者に術を学ばせ導く者。玄理くろまろのしたことは、教えに反する行為であり、このままにしておくわけにはいかなかった。

「俺は……。美夜部みやべを取り戻したい」

 と玄理くろまろが答えた。美夜部みやべの傷ついた身体は、玄理くろまろが霊力を注いで再生した。しかし、霊魂は身体を抜けてしまい、元には戻せない。

「分かっているはずだ」

 父が言うと、

「俺は知っている。霊魂を身体に戻す秘術があることを」

 と玄理くろまろが答えた。

「それは秘術。そして、禁術だ。決して、使ってはならない」

 父は厳しく言った。そして、

「その秘術は、もう誰も知らない。諦めろ、玄理くろまろ

 と言葉を続けた。しかし、玄理くろまろにはある考えがあった。きっと、父も知っている事だが、その秘術の記された禁書がどこかにあると。それさえ見つけられれば、高位の修行者であり、強い霊力を持つ玄理くろまろに、その術が使えるはずだと。

「俺は美夜部みやべを諦めない。父上も俺を深く理解しているだろう? この事で父上と争いたくはない。俺をここから追放してくれ。美夜部みやべを連れてここを出る」

 玄理くろまろの言葉に、父は深くため息をつく。説得などは意味がないと分かっている。もう、彼を止めることなど出来ないのだ。

「分かった。お前は、今を持って破門とする。ここを出て、好きにするがいい」

 これは父の愛情であると、玄理くろまろは理解した。禁書を探すことも、禁術を使う事も当主として認めるわけにはいかない。破門とする事で、彼に自由を与えたのだった。


 こうして、玄理くろまろは家を出て蘇生の禁術が記された禁書を探す旅に出たのだった。美夜部みやべの霊魂は翡翠の珠に宿らせることで、ある程度の安定を保つことが出来た。しかし、人の身体にある霊魂とは違い、不安定であることは間違いない。このままでは、長く保てない事を玄理くろまろは知っていた。そして、美夜部みやべの霊魂もまだ、珠に落ち着かず、思念を伝えることも出来なかった。

「このままではまずいな」

 旅に出てから七日目、ある山道を歩いていると、茂みの中から真っ白な子兎が飛び出してきた。真向いから来る男がそれを捕まえ、

「これはいい。今日の飯にしよう」

 と言った。それを見た玄理くろまろは、

「旅の御方、どうか、その白兎を俺に譲ってはくれないだろうか?」

 と尋ねた。

「はあ? こいつは俺が捕まえたんだぜ? これが欲しけりゃ、何かと交換だ。例えば、その腰に差した剣ではどうだ?」

 と男は悪意の籠った笑い顔を見せた。

「これがいいんだんな? では、これと交換だ」

 玄理くろまろがあっさりと了承したのを見て、男は拍子抜けした。たかが野兎一匹に、どうみても高価な剣を差し出すなんて、可笑しな話しだ。しかし、男は儲けものだと喜び、

「それじゃあ、そいつと交換だ」

 そう言って、白い小さな兎を玄理くろまろに渡し、剣を受け取った。しかし、その瞬間、男の身体には雷が落ちたような衝撃が走り、その場に倒れて意識を失った。

「ああ、これは大変だ。どうやら、この霊剣に触れる事すら出来ないようだな。可哀想に」

 玄理くろまろはそう言って、男を揺すってみたが、意識は戻らなかった。

「死んではいないようだな?」

 そう言って、男を道の脇の木の根元に寝かせて、

「剣が駄目なら、これと交換だ。ああ、意識がないんだったな?」

 そう言って、玄理くろまろは銀貨を一枚男の手に握らせて、その場をあとにした。

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