第3話

 今は白兎の姿をしている者と、仙人の風貌をした若者。彼らの旅には、ある目的があった。



 一月ひとつき前の事、彼らはある戦火に巻き込まれ、大きく運命が変わったのだった。


 国を治める大王の主権を狙う、二大勢力の争い。武力に加え、呪術を使う者たちを交えた戦いは、まるで地獄絵図のように悲惨極まりないものとなった。この戦いに、呪術を操る者として、参戦していたのが、この若者で、名を葛城玄理かつらぎのくろまろという。そして、玄理くろまろと共に旅をしている白兎しろうさぎは、かつて彼と共に戦った戦友の武内美夜部たけうちのみやべ


 その戦いが始まったのは、白鷺びゃくろ六年、大戦後は朱鷹しゅおう元年となる年の春だった。


 その当時の大王は病に伏し、次期大王を決める必要があった。皇位継承の資格のある皇族を擁立する豪族たちによる争いは、日ごとに大きくなり、呪術を使う者たちに後継者候補の命を取るよう命じた。これにより、招集命令が発布され、集められた術者の数は双方合わせれば千を越えた。どちらの勢力も甲乙が付かぬほどの互角であり、もはや、皇族の皇位継承とは関係なく、術者たちの戦いとなった。身内を殺され、復讐の念を強く持ち、互いに殺し合い、一月ひとつきが過ぎれば、その数は半減していた。

玄理くろまろ、俺たちは一体何のために戦っているんだ?」

 美夜部みやべはぽつりと言った。

「殺された者たちの為だ」

 玄理くろまろが答えた。


 そんな中、敵側の術者が禁術とされる鬼術を使い、死んだ者たちの骸を傀儡として操った。その骸は敵の者だけでなく、味方の者までいる。死者への冒涜であり、皆が怒りを露わにし、襲って来る身内の亡骸に戸惑うばかりだった。

「なんて恐ろしいことを!」

「なんて、外道な!」

 口々に悪態をつき、涙を流しながら、止む無く仲間の亡骸を切り捨て、払い除け、焼き払った。

「こんなこと……。俺には出来ない」

 目の前に現れた傀儡は、美夜部みやべの兄、そして、弟。美夜部みやべは武器を捨て涙を流し、彼らの亡骸を抱きしめた。その瞬間、兄弟の二本の剣が美夜部みやべの身体を貫いた。

美夜部みやべ!」

 それに気付いた玄理くろまろは彼に駆け寄り、傀儡となった美夜部みやべの兄弟たちを薙ぎ払い、力なく崩れ落ちるその身体を抱きとめた。鮮血が止めどなく流れるのを手で押さえてみるものの、その流れは止めようがなかった。

「駄目だ、死ぬな!」

 玄理くろまろは霊力を送るが、美夜部みやべが死にゆくのを肌で感じていた。

「嫌だ! 嫌だ! お前を死なせない! 俺が死なせない!」

 美夜部みやべの霊魂が身体から抜けるのを、玄理くろまろは強く縛り引き留めてしまった。

「おい! それはいけない事だ!」

 仲間に言われた言葉など、玄理くろまろの耳には届いてはいなかった。玄理くろまろの強い想いに縛られた美夜部みやべの霊魂。それを見ていた仲間たちは、もう、何も言えなかった。

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